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黄泉川「今日も今日とて仕事が終わり、やっぱり平和が一番じゃん」スタスタ ガチャリ ガチャガチャ 黄泉川「ただいまーっ。明日は一応休みだしビールでも飲んでゆっくりしたいじゃーん」ギィィィ バタン 黄泉川「桔梗ー、冷蔵庫のビール出しといて欲しいじゃんよ。まっさか全部飲みきったなんて話あるわけ――――――」スタスタ ガチャ 打ち止め「抱いてくれなきゃやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁぁぁぁぁ!!!」 一方「ぜェェェったいにだめだめだめだめだめだめだめだめだめェェェェェ!!!」 芳川「……あら愛穂、おかえりなさい」ゴロゴロ 黄泉川「」 黄泉川「えっ?」 芳川「何? そんな所に突っ立って。ビールを出せば良いのよね」ムクリ 黄泉川「え、あ、そうだけど…………、なななにもかにもないじゃん! 一体全体何がどうしてこうなったじゃんよ!」 芳川「? ――――――ああ、あの二人のこと?」 黄泉川「それ以外にあるわけないじゃん!? しかも何で私がいない間に大人の階段三段飛ばしで駆け上ってんの!? 私も一度は打ち止めに『赤ちゃんってどこから来るの?』って聞かれたかったじゃん!」 芳川「何言ってるのよ。それに……別に貴方が言うほど大人の階段登ってるわけでも無いと思うけれど」 黄泉川「……へえ、あれが?」チラッ 打ち止め「じ、じゃああなたはミサカの事捨てるんだ! ポイなんだ! 都合が悪くなったら投げ出しちゃうんだ! そんなの非道い、ってミサカはミサカは声も高らかに!!!」 一方「ンな訳ねェだろォがガキィィィィ!!! 俺はもう二度と捨てねェって決めたンだよクソが!!!!」 打ち止め「じゃあ抱いてくれても良いじゃない!!」 一方「それとこれとは話が違ェェェェ!!!!」 打ち止め「抱いて抱いて抱いて抱いて抱いて抱いて抱いてってミサカはミサカはミサカはミサカは」 一方「抱かない抱かない抱かない抱かない抱かない抱かない抱かない」 黄泉川「あのやり取りを見ておいてどぉぉぉの口でそんな事抜かしてる、じゃん、よ」グググググ 芳川「ち、ちょっと愛穂顔が近い、落ち着いて!」 黄泉川「落ち着いてられるわけないじゃん! 何で揉めてんのか知らないけど止めてこなきゃ!」 芳川「あ、ちょっと待ちなさい」グイッ 黄泉川「ぐえっ」キュッ 黄泉川「ゲホっ……急に何すんの、死ぬかと思ったじゃん!」 芳川「今は口出しちゃ駄目よ。愛穂、KYな事はやめたほうが良いわ」 黄泉川「KY……っていうと」 芳川「空気読めない」 黄泉川「KYじゃん!? え、何? 私KYなんじゃん!?」 芳川「かんっぺきなKYよ。そもそも内容もわからないのに入っていっても無闇に場を混乱させるだけでしょう」ハァ 黄泉川「若干腹立つけど、今は置いとく。そうまで言うなら何がおきたのか、ちゃきちゃき話すじゃん!」ギラッ 芳川「はぁ、ちゃんと順を追って話していってあげるわよ」 芳川「少し前だったけど、まず打ち止めが――――――」 ~~~~ 芳川「…………」ゴロゴロ 打ち止め「ぁ……ぅ……」ウロウロ 一方「…………」 打ち止め「ん…………」ウロウロ 一方「…………」グビリ 打ち止め「ね、ねえねえ」モジモジ 一方「……ァ?」 打ち止め「…………なんでもない」 一方「…………」グビリ 打ち止め「…………」ウロウロ 一方「なァァァァンなンですかァァァァ!!?? さっきから何かいいたそォにウロチョロうろつきやがって!」ゴッパァァァァァ!! 一方「あァっ、コーヒーがァ……」 打ち止め「ご、ごめんなさい! ってミサカはミサカはあなたに迷惑をかけたりするつもりじゃあ……」 一方「…………」フキフキ 打ち止め「…………」シュン 一方「なンの用だったンだ」 打ち止め「…………え?」 一方「言ってみろ。コーヒー淹れたら聞くだけは聞いてやる」 打ち止め「……良い、の?」 一方「まだ聞いてもいねェのに判断できる訳ねェだろ」 打ち止め「あのね、お願いがあるの。って、ミサカはミサカはもったいぶってみる」 一方「良いからさっさと言え。なンだ?」 打ち止め「抱いて欲しいな」 一方「ふゥん……?」グビリ 打ち止め「って、ミサカはミサカは一大決心と共に告白してみr」 一方「ぶゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」ブーッッッッ!!!! 打ち止め「わぁ、きったなぁい!? ……こういうのってがんしゃって言うんだよねって、ミサカはミサカは新しく仕入れた知識を披露してみる」ムッフー 一方「どこで覚えた、ンなお下品な言葉ァ! お前にはまだ早い!」クワッ! 一方「そもそもいきなり抱けたァどンな了見してるどこの尻軽だァ!? ンな風に育てた覚えはねェぞ!!!」 打ち止め「む! そんな軽い気持ちで言ったんじゃないもん! ミサカはミサカは、そりゃもう山よりも深く海よりも高い決意を持ってあなたに言ったのに!」 一方「尚悪いじゃねェか! 年考えろ年ィィィィィ、その眼下に広がる山より深く海より高い盆地に聞いて見やがれってンだ断崖絶壁がァ!!」 打ち止め「ぁああああ! 今言っちゃいけないこと言った! ふん、もう後何年もすればぼんきゅっぼぉぉんのないすばでーになるんだから! ってミサカはミサカは今はまだ無い胸を張ってみる!」 ~~~~ 黄泉川「よしわかった、さぁて早速二人を止めてくるじゃん」ダッ 芳川「Hey stop」ガシッ 黄泉川「うぐぇ」キュッ 黄泉川「」 芳川「……あら?」 黄泉川「黄泉川が黄泉の川渡りそうになっちゃった☆ ってやかましいじゃん! 今度は何!?」 芳川「だから口を出しちゃ駄目よ。愛穂、貴方KYJだわ」 黄泉川「KY……J、って何の事じゃん? ジャパン?」 芳川「空気読めないじゃん」 黄泉川「KYJじゃん!? KYJなんじゃん私!?」 芳川「かんっぺきなKYJよ。そもそも話はまだ終わってないわ」 黄泉川「……今度は最後まで聞くじゃん」 ~~~~ 一方「……落ち着いたか?」 打ち止め「そう言うあなたも落ち着いた? ってミサカはミサカは聞き返してみる」 一方「情けなくも取り乱しちまったじゃねェかクソがァ……、コーヒーも無駄ンなるし。ホレ」フキフキ 打ち止め「ん……」 一方「で、結局なンの話だったンだ?」 打ち止め「あ、あのね! もうおわっちゃったけど、さっきのテレビでこぉんな白いおっきいドレス着た女の人が男の人にこんな風に抱かれてたの。こう目の前に抱えるみたいに……、ってミサカはミサカはジェスチャーしたり」 一方「…………結婚式かァ?」 芳川「ああ、さっきそんなドラマやってたわよ。多分それの事ね」 打ち止め「それで、その女の人がすっごい幸せそうだったしね? だから、ミサカもミサカもあなたに抱いてもらいたいなぁって!」 一方「却下」 打ち止め「即答!? あ、あなたの愛をまったく感じないノーシークだ! ってミサカはミサカは頬をぷくー!」プクー 一方「アホらしい事言ってンじゃねェよ。そこで暇してる誰かさンにでもしてもらえ」 打ち止め「誰かじゃ意味ないもん! あなたに抱いてもらうのが大切なの!」 一方「俺がァ? …………はっ」プイッ 打ち止め「むぅぅぅぅぅぅぅ、減るものじゃないんだから良いじゃない! ってミサカはミサカは地団太を踏んでみたり」ダンダン 芳川「打ち止め、貴方が言ってるのってこう体の前で、背中と足を持ってもらう抱き方でしょう?」 打ち止め「そうそれ! よくわからないけど、お互いの顔を見ながら抱いて貰うのって素敵じゃない? ってミサカはミサカは芳川に首を傾げてみる」 芳川「それね、お姫様抱っこって言うのよ。すっごく仲が良い男女の間でする抱き方ね」 打ち止め「お姫様だっこって言うの? 素敵! ミサカもミサカもお姫様になりたいな、ってあなたの方をチラッチラッ」 ____ / ⌒ ⌒ \ ./( ―) ( ●) \ / ⌒(_人_)⌒ | チラッ | ー .| \ / / ̄ ̄ \ / ヽ、,_ \ (●)(● ) | (__人___) | 一方「早く(ピーッ)よ」 、`⌒ ´ | | | ヽ 、 イ 芳川「良いじゃない、やってあげたら? 女の子はウェディングドレスやお姫様抱っこに憧れる時期があるのよ。打ち止めも立派な女の子って事ね」 一方「ン? …………あァ、まだドレスに憧れ続けてる芳川さンは流石言うことに重みがあらァな」ププッ 芳川「」ビキビキビキビキ 打ち止め「ね? ね? 抱いて欲しいな!」 一方「だァめだ。ンな面倒な事やってられっかよ」 打ち止め「………………ふん、あなたがそんなにケチんぼだとは思わなかった、ってミサカはミサカは鼻息を荒くふんがいしてみる」ムスー 一方「ケッ、ヘソ曲げたってやンねェもンはやンねェぞ」 打ち止め「じゃあテレビでも見てこようっと……」トタトタ 一方「………………ハッ」グビリ 打ち止め「とか言って気を逸らした隙にミサカはミサカは近づいてぇえええええええええええ!!!」ガメンハジィィィィィ 一方「ぐふォァァァァ!!!!」ゴッパァァァ 打ち止め「そんなもんであきらめると思ったら大間違い! ってミサカはミサカは往生際が悪い所を見せちゃう!」 一方「クソガキィィィィィィィィ!!!! テメェ俺ンコーヒー何杯無駄にすりゃ気がすむンだこらァァァァ!?」 ギャーギャーガーガー 芳川(………………) 芳川(テレビでも見ようかしら)ピッ ~~~~ 芳川「と、いう話だったのさ」 黄泉川「ちっともめでたくないじゃんか……。でも最初は驚いたけど、蓋開けりゃかわいいもんだったじゃん」 芳川「でしょう? だから放っておいた方が良いのよあの程度なら。本人たちでなんとかするでしょ」 黄泉川「うーん…………、やっぱり桔梗も向いてると思うんだけどなぁ」 芳川「何が?」 黄泉川「先生。なんだかんだで世話焼きだから悪くないと思うじゃんよ」 芳川「……無理ね、線引きができないから」 黄泉川「残念じゃん」 吉川「それはそうと、あっちはあっちでそろそろ大詰めっぽいわよ」 一方「大体百年早ェンだよクソガキィ! そんな凹凸のねェ背負いやすっそうな体型しやがって、テメェにはオンブが似合いだ!」 打ち止め「人の体でさべつしちゃいけないってヨミカワも言ってたのに、サイテー! それにミサカの体がぺったんなのはミサカのせいじゃないもん!! ってミサカはミサカは反論してみる!!」 一方「誰のせいとかかにのせいとかじゃねェ! と・に・か・く、俺がテメェに抱っことやらをしてやる謂れはねェぞ!」 打ち止め「う、うううううううううううう」 一方「悔しかったら背負いにくそォな体型になってから言え! それまでは聞く耳持たねェからな!!」 打ち止め「……………」ウルウルウル 一方「…………ァ」 打ち止め「あ、あなたがそんなおっぱい星人だなんて知らなかった! ば、ば、ば、ば、ば、ば、」 打ち止め「ばかああああああああああああ、うわあああああああああああああああああん」ダダダダダダダダダ ガチャバンッ! ダダダダダ…… 一方「」ポカ-ン 黄泉川「あーあ、泣かしちゃったじゃん」 芳川「女の敵ね」 一方「うおっ、黄泉川テメェいつの間に!」 黄泉川「こっちに構ってる暇があったらさっさと連れ戻してくるじゃん。あの調子だと外まで飛び出していっただろうし」 芳川「どうせ抱っこしてあげない理由も、面倒くさいとか恥ずかしいとかそんなものでしょう? とっとと逃げ出したお姫様を連れ戻して来なさい」ヒラヒラ 一方「なっ!? そ、そンなンじゃねェ……」 黄泉川「…………」ジトー 芳川「…………」ジトー 一方「…………」ダラダラダラ 一方「わァったよ! 行ってくりゃ良ィンだろォが!!」ドスドス 黄泉川「うまくやるかな? 一方通行の事だからまた変な意地張りそうだけど」 芳川「それでもなんだかんだでうまくやるわよ。だって打ち止めがお姫様なんでしょう? なら一方通行は、ね?」プシュ グビッ 黄泉川「あ、一人抜け駆けはズルいじゃんか。私も飲むじゃん」プシュッ 芳川「ふふっ、かんぱーい」カンッ 一方「近くにはいなかったから……、どっかに行っちまいやがったか」キョロキョロ 一方「仕方ねェ、適当に歩いて探すか」コツコツ 一方「…………」コツコツ 一方「ったくゥ、ンで俺がこンな事…………」コツコツ 一方「大体あのガキはなんにでもかんにでも、動物みたいに興味しんしんで首をつっこんでいきたがりやがる」 一方「どンだけ多感な年頃ですってかァ? ワガママ放題だしピーピー喚くしよォ」 一方「………………」 一方(…………まあ、知識ばっかで経験も糞もねェアイツの生い立ち考えりゃ無理もねェかもしれないが) 一方(っつったってどの面で俺が優しくしてやれってか? 同じ顔を一万ばかり纏めてブッ殺したこの俺が? 笑わせやがる) 一方(それに……、お姫様だっこだァ? ンなこっぱずかしィ事やってられっかよ) 一方(――――――お、道の向こうにいンのは……やっぱり打ち止めか) 一方(さっさと捕まえて連れ帰ってやるか。面倒かけやがる)コツコツ 打ち止め「!!!」タタッ 一方(……ン、気づかれたか? 逃げ出しやがった。……ッッ!!) 一方「馬鹿糞ガキッ!! せめて前見て走りやがれ!!」ダッ 一方(逃げたまま道に飛び出しやがった……! 横から――――――トラックだとォ!?) 一方(間に、合えッッッ!!!)カチッ 打ち止め「ひっく、ぐすっ」タタタタ テクテク 打ち止め「知らない! もう知らない! 愛想が尽きた! 実家に帰る! ってミサカはミサカは抑えきれない怒りを何の罪も無い電柱にぶつけてみる!」ガッ 打ち止め「いったぁああぁあああああい!! ぅぅぅぅぅぅ、これも全部あの人のせいだ、ってミサカはミサカは全部あの人のせいにしてみたり」 打ち止め「ちょっとくらい……ちょっと抱いてくれるくらいしてくれても良いのに。ホントあの人ったら越後屋よりもドケチなんだから、ってミサカはミサカはぶーたれてみたり」 打ち止め「…………」テクテク 打ち止め(そりゃミサカもミサカでちょっとワガママ言っちゃったかも? っていうか結構いきなりワガママ言っちゃったかも? ってミサカはミサカは思わなくも無いけど) 打ち止め(だからって言っても断崖絶壁とか盆地は酷い! へこんではないからどんなに酷くても、せめて平地はあるもん! …………ってミサカはミサカは自分で空しくなってきた) 打ち止め(…………) 打ち止め(ミサカは、あの人に甘えちゃってるのかな) 打ち止め(それもあの人の好意じゃなくて、あの人の罪悪感に甘えてる) 打ち止め(あの人は、ミサカ達にしてきた事をすごく気にしてるから、ミサカが何か言っても最終的には折れてくれる事の方が多い。って、ミサカはミサカは分析してみる) 打ち止め(…………あの人は、ミサカの事何とも思ってないのかな。罪悪感でずうっと接してくれてるのかな、ってミサカはミサカは推測してみる) 打ち止め(そんなのやだな、ミサカはこんなにあの人の事好きなのに、それなら冷たくされてる方が……でもやっぱり冷たくされるのもイヤだし、ってミサカはミサカは複雑な気持ちの海におぼれみる) 打ち止め(それにミサカはあの人に迷惑かけてばっかりで、何にもしてあげれてないや。ミサカも一方通行だ、ってミサカはミサカ……は……)ウルッ 打ち止め(………………) 打ち止め(暗い事ばっかり考えててもしょうがないから、今は違う事考えようってミサカはミサカは気を取り直してみたり)ゴシゴシ 打ち止め(…………飛び出して来ちゃったけどどうしよう、お金なんて持ってないし。って、ミサカはミサカは出だしからポジティブシンキングの失敗に苦い顔をしてみる) 打ち止め(そもそも、ここどこだろう。適当に走ってきちゃったからわかんなくなっちゃったかも、ってミサカはミサカは辺りをキョロキョロ)キョロキョロ 打ち止め「!!!」 打ち止め(あ! あれあの人だ! 追いかけてきてくれたんだ! ってミサカはミサカは何故か跳ねる胸に驚いてみたり!) 打ち止め(ででででも、まだ心の整理もできてないし何言えばいいかわかんないし。それに、いきなり飛びついちゃったら軽い女だと思われる、って本にも書いてあったし) 打ち止め(ひとまずあの人から逃げ出す為に、ミサカはミサカはとりあえずダッシュ!!)タタッ 一方「ッ!! ば…………ガキ……前……走…………!!」 打ち止め(あの人あんなに必死な顔しちゃって、それだけミサカの事心配してくれてたのかな? ってミサカはミサカは何故かちょっぴり嬉しくなってたり)タタッ キキィィィィィィ 打ち止め「――――――え?」 あれ? トラックが、何でミサカのこんなに近くにいるんだろう。なんで音が聞こえなくて、こんなに世界がゆっくりなんだろう。 ミサカの手も動かないし、ミサカの足も動かない。でも、トラックがゆっくりミサカに近づいてくる。これって、前にテレビで見た死んじゃいそうな時にものが止まって見えるってやつ? ひょっとして、ミサカはこんな所で死んじゃうのかな。 …………どうせなら、前のミサカ達みたいに、あの人にしてもらった方が良かったかも。 もしそうなら、あの人とお話する時間はあったし。ちゃんと頼んだら、あの人とご飯も食べれるかもしれないし。『その時』が来るまで、もしかしたら散歩なんかもできるかもしれないし。 あの人の顔を、あの人の近くでずうっと見ながら死んだらもしかしたら、あの人は泣いてくれるかな。 そうじゃなくても、ずっと覚えててくれると思う。自分が手にかけたミサカ達の事を、あの人はずっと覚えてたから。 でも、ミサカみたいにトラックに撥ねられて死んじゃったら、あの人はミサカの事ちゃんと覚えててくれるかな。 自業自得だけど。飛び出したのはミサカだけど、折角なら。近くじゃなくてもいいから、あの人の顔を見ながら死にたかったな。 他のミサカ達は、どんな気分で死んでいったんだろ。ミサカ達が見てたのはあの人の顔なのに、ミサカが見てるのはただのトラック。 最後の睨めっこの相手がトラックだなんて、すごいかっこわるいな。って、ミサカはミサカはミサカ達に嫉妬。 だからせめてもう一度あの人の顔を、お姫様だっこみたいな距離で見るまで 死にたく、ないな。って―――― ぐしゃり 打ち止め「………………あれ、生きてる? ってミサカはミサカは……」 一方「そォやって尻もちついてヘタりながら……そォだな、例えばまあ命乞いでもしてンのが似合いだ、テメェらは」 打ち止め「え……? あ、あなたが助けてくれたの……?」 男A「お、女の子が撥ねられそうになってたトラックを少年が止めた!?」 男B「き、救急車呼べ救急車! アンチスキルでも良い!」 男C「トラック前面グシャグシャじゃねえか……、あ! 運転手が目回してんぞ!」 ザワザワザワ 一方「……チッ。おい打ち止めァ」 打ち止め「――――!」ビクッ 打ち止め「な、な、何……? って、みみミサカはミサカはあたふたしながらも必死にそっけない態度を」 一方「……怪我はねェか?」 打ち止め「あ………………」 打ち止め「……うん、大丈夫ってイタッ!」 一方「足でも捻ったか?」 打ち止め「……そうかも、ってミサカはミサカは意識したとたんに痛くなってきたのを我慢しながら答えてみる」 一方「騒ぎになってンのは面倒だ、移動すンぞ」スッ 打ち止め(だ、だっこしてくれるのかな…………?)ドキドキ 一方「乗れ」カチッ 打ち止め「…………」 打ち止め(――――――そうだよね。散々迷惑かけちゃっておまけに助けて貰ったんだし、おんぶして貰えるだけでもありがたいよね、ってミサカはミサカは自分を理屈で納得させてみる) 打ち止め「わかった」ヒョイ 一方「舌噛むンじゃねェぞ」ダッ 一方「十分離れはしたがさっきの場所通るわけにもいかねェし、少し遠回りして帰る。良いな」スタスタ 打ち止め「うん……」 打ち止め「ね、ねえ」 一方「ァン?」スタスタ 打ち止め「助けてくれてありがとって、ミサカはミサカは切り出してみる」 一方「そォ思うンなら次からは前見て歩け。毎回間に合う保障はねェぞ」 打ち止め(…………それでも、毎回助けてくれるつもりなんだ。やっぱりあなたは優しいね、ってミサカはミサカは内心でつぶやいてみる) 打ち止め「さっきは、ごめんね? 我侭言っちゃって。って、ミサカはミサカは反省してみたり」 一方「…………」スタスタ 打ち止め「それで結局あなたにまた迷惑かけちゃった。もう、あなたに迷惑かけたくないって思って、迷惑かけないようにしようって決めてたのに」 一方「…………」 打ち止め「さっきのもほんとはあんなつもりじゃ無かった。ただ……ミサカもあなたに抱いてもらったらすっごい幸せだろうな、って思ったの。って、ミサカはミサカは言い訳してみる」 一方「…………」 打ち止め「あんなに近くで、あなたの顔を見ながらくっつけたら幸せかなぁって。そしたら、あなたにあんなにスグやだ! って言われてカッてなっちゃって……」 一方「…………」スタスタ ピタッ 一方「なァ」 打ち止め「え? な、なにかな? ってミサカはミサカはビクッとしながら恐る恐る聞いてみる」 一方「打ち止め、俺はテメェの撒き散らす事件だの何だのを面倒だとは思っちゃいるが迷惑とは思っちゃいねェ」 打ち止め「どういうこと?」 一方「……俺はしてェ事だけして生きてンだ。お前がごちゃごちゃと足りねェ頭絞って考える事はねェよ」 打ち止め「…………」 一方「お前は、好きなように生きてろ。俺が、好きなように生きてるみてェにな。ただ、いらねェ面倒はかけンじゃねェぞ」スタスタ 打ち止め(…………えっと、えっと) 打ち止め(ミサカと一緒にいてくれてるのも、好きでいてくれてる、ってこと? 嫌々じゃないってこと? あなたに、嫌われてないってことだよね……? って、ミサカはミサカは内心であなたの言葉をかみ締めてみる) 打ち止め(…………うれしいなあ) 打ち止め「…………うん」ウルッ 一方「もう一つ聞きてェ事があンだが」 打ち止め「なになに? って、ミサカはミサカは取り繕うように声を張り上げてみる」ゴシゴシ 一方「なンでよりにもよって俺だったンだ? そいつを……、その、抱いて欲しィのが」 打ち止め「………………」 打ち止め「ふんっ」ムスー 一方「な、なンとか言えよ」 打ち止め「……無神経、鈍感、ぼくねんじん。って、ミサカはミサカははき捨てるようにもらしてみる」 一方「……なンかすげェ勢いでディスられてンだが」 打ち止め「お姫様だっこ!」 一方「そいつがどォした?」 打ち止め「だってもしお姫様がミサカなら、王子様はあなたしかいないもん! ってミサカはミサカは口をとがらせてみたり」 打ち止め「さっき助けてくれたのも、ピンチの時に助けてくれる王子様(ヒーロー)みたいでカッコよかったから。ミサカの王子様はあなただけが良いの! だからあなたのお姫様はミサカだけが良い! って、ミサカはミサカは何が悲しくてこんな恥ずかしいセルフ説明をしてるんだか」 一方「………………」 打ち止め「………………」 一方「………………」 打ち止め「な、何か言って欲しいんだけど、ってミサカはミサカは汗がタラタラ」 一方「………………おぶりにくい体型になったら、してやる」 打ち止め「……何を?」 一方「抱いてやる方が様になるよォになったら、してやるってンだ」 一方「わかンねェならデカくなってからのお楽しみにしとけ」フイッ 打ち止め「――――――あはっ」 打ち止め「ねぇねぇ!」 一方「こンどはなァンなンですかァ?」スタスタ 打ち止め「抱いて貰えなかったのは、凄く残念だけど」 打ち止め「でもね。抱っこと違ってあなたの顔は見えないけど、あなたのあったかさを体でたくさん感じられるから」 打ち止め「おんぶも好きだよ! って、ミサカはミサカはあなたにギュー!!」ギュゥゥゥ 一方「ぐェェ」 打ち止め「ぎゅうううううううううう」 一方「く、クソガキやめろ苦しィ…………」ギリギリギリ 打ち止め「それとね? ミサカはミサカはどさくさにまぎれて大胆に告白してみる!」 打ち止め「ミサカは、だっこよりおんぶよりあなたの事が一番大好き!!」 満面の笑みで輝く少女の表情は、少年のそれをも照らす。 本当に嬉しそうな笑顔だった。本当に幸せそうな笑顔だった。 苦々しい表情を装ってはいたものの、少女のそれを受けてか少年もうっすらと笑っていた。 今の二人の様子、少年におぶられる少女という光景は今しばらくの間、様になり続けるのだろう。 だから、少年が少女を抱く日はまだまだ来ないのかもしれないが。 しかしもしかすれば――――――その日は、そう遠くない日に迫っているのかもしれない。
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科学サイド(学園都市) 上条の高校 生徒 上条 当麻(かみじょう とうま) 土御門 元春(つちみかど もとはる) 青髪 ピアス(あおがみ ピアス) 姫神 秋沙(ひめがみ あいさ) 吹寄 制理(ふきよせ せいり) 雲川 芹亜(くもかわ せりあ) 教師 月詠 小萌(つくよみ こもえ) 黄泉川 愛穂(よみかわ あいほ) 親船 素甘(おやふね すあま) 災誤(さいご) 常盤台中学 御坂 美琴(みさか みこと) 白井 黒子(しらい くろこ) 婚后 光子(こんごう みつこ) 食蜂 操祈(しょくほう みさき) 寮監 薄絹 休味(うすきぬ やすみ) スキルアウト 駒場 利徳(こまば りとく) 服部 半蔵(はっとり はんぞう)
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二人の恋する乙女 「ろ、露伴先生!?何でここに?」 康一は、驚いていた。何しろ、見知らぬ土地で風紀委員と言う名の治安維持部隊に追いかけられ、逃げ回っている最中に ここにいるはずのない、知り合いに出会ったのだから当然といえば当然だ。 「康一君ッ!?」 露伴が普段冷静な彼だとは思えないほどの、驚いた顔をしている。 「なんで、君たちがここにいるんだ?」 露伴が質問してくる。 康一は、息切れしていて中々答えられないので、代わりに横にいた由花子が答える。 「私達、修学旅行でここにきたんです。それで、今ジャッジメントとかいうやつに追いかけられていて…」 由花子は話しながら、康一を大丈夫?とか言いながら心配している。 「ろ、露伴先生こそ、ハーハー、何で、ハーハー、こ、ここにいるんですか?」 「ああ、私か?私はサイン会でここに来ているのだよ。」 露伴は思い出したように自分の当初の目的を話す。 その時。 「そこの二人!とまるんじゃん!」 康一と由花子を呼び止める声がする。 声がした方には、身を防護服で固めたアンチスキルの黄泉川愛穂と鉄装綴里がいた。 実は、彼女たちは休日のため食品街を巡回していたところ、初春飾利に会い事情を聞かされ、不審者を追いかけていたのだ。 そして、今初春の情報と合致する人物を見つけたというわけだ。 「な、何でしょうか?」 康一が引きつった笑顔で答える。 「あんたら、さっきスキルアウトをボコボコにしたらしいんじゃん。見かけない制服着てるし、事情聴取したいんじゃん。」 黄泉川が康一に告げる。 すると、 「康一君は何もしていないわ!私がやったの!」 と由花子が康一を庇う。 さらに、小声で 「康一君は逃げて、私がなんとかする。」 と告げる。 「で、でも…」 「いいから逃げて!私は大丈夫よ。こんな奴ら屁でも無いわ。」 「分かったよ。由花子さん無茶しちゃダメだよ?」 「ええ。わかってるわ。」 二人は言葉を交わすと、康一は一目散に逃げ出す。由花子を信頼しているからこそできることなのだが。 「そこの少年待つじゃん!」 康一を黄泉川と鉄装が追いかけようとする、はずだった。 しかし、黄泉川と鉄装は動けない。 足が何か黒いもので縛られている。 「ひえぇぇぇぇ。」 鉄装は情けない声を出す。 さらにその黒いものは足から這い上がって、体までも締め付け始める。 そこで、黄泉川は気づくこの黒いものが、由花子の髪だということを。 「そこらの奴ら!危ないから逃げるじゃん!」 黄泉川が腰の銃を引き抜きながら叫ぶ。 目の前の様子を見ていたサイン会に集まっていた客が、ワーッと逃げ出す。 インデックスも例外になく逃げようとする。しかし、彼女は身動きひとつしない御坂美琴をみて 「短髪!逃げろって言われてるんだよ!?」 インデックスは悲痛な叫びを美琴にぶつける。 銃を用意する黄泉川たちを見ていた美琴は 「あの女が何者か分からないけど、あの二人がこのままやられるのを放っておけって言うの!?」 美琴の目線のさきでアンチスキル二人が、どんどんと由花子の髪によって締め付けられる。 ついに、あまりの苦しさに銃をポトリと取り落とす。 「ぐあぁぁぁ」 「ひあぁぁぁ」 二人が悲鳴をこぼすものも、由花子は全く緩める様子が無い。 この状況を見かねた美琴は、何か言って袖を引っ張るインデックスに 「アンタは逃げなさい。」 と一言残し、由花子に向かってゆく。 その間にも、黄泉川たちは髪にどんどん縛られていく。 そしてついに、鉄装が気絶してしまう。 「鉄装?鉄装?」 黄泉川は悲痛な声を上げる。 だが、その直後黄泉川は自分の体がフッと楽になるのを感じた。 状況が理解できずに、由花子を見る。 なんと、由花子の髪が切断されていた。状況を把握した黄泉川は、安心したためか気を失ってしまった。 「な、なによ!?何なの!?今の雷は!?」 由花子は自分の髪が傷つけられたことに憤慨して、叫んでいる。 「私よ。」 憤慨している由花子に、美琴が告げる。 「アンタの髪を切断したのは私。」 確認するように、もう一度同じ内容を告げる。 「由花子って昔から興奮すると、(眼輪筋)ってところがピクピクしてちょっと暴力的になるの。」 まぶたをピクつかせている由花子が何か話している。 「?何言ってるの?アンタ?」 美琴は脳神経に電撃が効いてしまったのかと、心配しながら問いかける。 「アンタはブチコロシ確定よーッッッ!このビリビリ女!」 「ラブ・デラックス!!」 由花子の髪の毛が猛然と美琴に襲い掛かる。 しかし、その髪の毛は美琴の電撃をうけ燃えてしまった。 「そんな攻撃、レベル5の私に効くと思ったわけ?」 「なめてんじゃ無いわよッ!」 今度は美琴の電撃が由花子に襲い掛かる。 由花子は髪の毛で近くの木をつかみ、飛び上がって電撃をよける。 「髪の毛を操る能力なんて効いたこと無いけど、私の攻撃それぐらいでよけたと思ってんじゃないわよね?」 美琴がそう告げるとともに、由花子に電撃が走る。 「!」 美琴の放った電撃が、木を伝いまたその木をつかんだ髪を伝い由花子に流れていったのだ。 ボトッと気を失った由花子は地面に落ちる。 彼女は気を失う直前に、康一のことを思っていたためかその顔は微笑んでいる。 「手加減はしたけど、死んでないわよね…」 美琴は由花子に近づき、心臓が動いているのを確かめる。 彼女の心臓はまだ動いていた。 「よかった…、それにしても髪の毛操るなんて面白い能力よね。どんな力使ってんのかしら?」 ほっとひと安心した美琴であった。 to be continued...
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『日常+非日常=?』 朝、偶然何時もより早く目が覚めた黄泉川愛穂は台所で信じられないものを見てその場に立ち尽くした。 それは――最近は見慣れて来た白い着衣の上から、フリルも鮮やかな白いエプロンを纏った、まさに全身白尽くめのおと……? 「何、してるじゃん?」 黄泉川はあらん限りの勇気を振り絞って、その朝の清々しい雰囲気を作り出している人物――一方通行(アクセラレータ)に声を掛けた。 「あ? 黄泉川ァ。台所と冷蔵庫のモン勝手に使わせて貰ってンぞ」 一方通行(アクセラレータ)は振り返りもせずに答えにならない返事を返す。 それでも黄泉川はめげずに、残り少ない気力を搾り出して声を掛ける。 「で、で、ア、一方通行(アクセラレータ)は、何してるじゃんよぉー?」 「朝飯。テメェらの分も有っからよォ」 一方通行(アクセラレータ)はやはり振り返らなかったが、今度はちゃんと黄泉川の質問には答えた――さも当たり前のように、朝食の用意をしていると、しかも黄泉川(じぶん)たちの分も用意していると。 「えんぐっ!」 黄泉川は思わず叫びそうになるのを両手で自分の口を塞いで押さえ込む。 (『朝飯』を作ってる!? わ、私たちの分もあるだってぇ!?) 確かに漂うこの芳しき香りは、味噌汁か、はたまた炊き立てのご飯なのか? 「ンで、テメェは何しに来たンだ黄泉川」 「水、飲みに……」 黄泉川は真っ白になった頭で一方通行(アクセラレータ)の問い掛けにぼんやりと答えた。 すると一方通行(アクセラレータ)は、まるで勝手知ったるナンとやらと言わんばかりに出ていたマグカップをささっと手際行く洗うと布巾で拭いた。 そして冷蔵庫から出したミネラルウォーターを注ぎ「ほらよ」と黄泉川に手渡した。 しかも、受け取りやすいように持ち手を黄泉川の方に向けてだ。 「あり……がと」 黄泉川がぎこちなくマグカップを受け取ると、一方通行(アクセラレータ)はくるっと背を向けて台所に戻る。 テキパキと動く一方通行(アクセラレータ)と言うこの世にあってはならないものを見て、黄泉川は手にしたマグカップの事も忘れてその後姿を食い入るように見つめていた。すると――、 「じゃ、それ持ってオマエは向こう行ってろ。もう少ししたら用意出来っからよォ」 一方通行(アクセラレータ)は振り返りもせずに黄泉川に声をかけた。 その時黄泉川は思った。 (通い妻が居る。家に通い妻が居るじゃんよー) 黄泉川が呆然としたままマグカップを手にリビングに向かうと、そこには先に起きていた芳川がソファーに座って新聞を読んでいた。 「おはよう、桔梗」 「おはよう、愛穂」 黄泉川はテーブルにマグカップを置くとソファーに腰を下ろすと、今まで忘れていた呼吸を取り戻すかのように深いため息をついた。 そして神妙な面持ちで芳川と――芳川の持つ新聞をじっと見つめた。 「で、それは何のおまじないじゃんよ?」 「え?」 「新聞……。逆さじゃん」 「!?」 黄泉川がそう指摘した途端、芳川は手にした新聞をテーブルに放り出す。 そして彼女にしては珍しく背もたれにだらしなく仰け反った。 「読んでやしないわよ新聞なんか――それより愛穂、一方通行(アクセラレータ)に会った?」 「あー見た見た。いつから家に通い嫁が来るようになったのかと思ったじゃんよ」 「彼、どうなってるのかしら?」 「知るわけ無いじゃんよー。むしろこっちが教えて欲しいくらいじゃん」 「やっぱり――」 「何がやっぱりなンだ?」 「「!?」」 不毛なやり取りを繰り返していた2人は、一方通行(アクセラレータ)が2人に声を掛けるまで、彼がリビングに入って来た事に気付かなかった。 ぎょっとして一方通行(アクセラレータ)を振り返ると、一方通行(アクセラレータ)は丁度お盆に食器を載せて運んできた所だった。 「ンだよ」 2人の視線に眉間に深い皺を刻んで居心地悪さを顕にしながらも、一方通行(アクセラレータ)はテーブルを綺麗に拭いてから持ってきた食器を並べ始めた。 自分たちを無視して黙々と作業を続ける一方通行(アクセラレータ)を見て、2人はバツが悪そうに顔を見合わせた。 その気まずい雰囲気にまず耐えられなくなったのは、普段から陽気な性格の黄泉川だった。 「あ、な、何か手伝おうか?」 「俺が好きでやってンだから構わねェでくれ」 黄泉川の申し出を一方通行(アクセラレータ)は一瞥も与えずに断ってしまう。 断られた黄泉川の方は差し伸べようとした右手の行き場に困ってしまった。 しかしまだ諦めきれないのか、一度引っ込めた手は胸の高さに持ち上げられたまま指が空を掻いている。 黄泉川はその姿勢のままちらっと芳川を見るが、芳川は両掌を上に向けて『打つ手無し』のポーズを見せる。 そして2人がそんなやり取りをしているうちに、一方通行(アクセラレータ)の方は作業が終ったのか立ち上がると、無言でリビングを後にした――と思われたのだが、 「オイ、クソガキはどォしたよ?」 一方通行(アクセラレータ)はひょいと顔だけ出して2人に聞いた。 「起こさないと起きてこないわよ、あの子」 「わ、私が起こして来るじゃん」 芳川がチラッと一方通行(アクセラレータ)を見ながら答える隣で、黄泉川がソファーから立ち上がる素振りを見せた。 ところが、 「黄泉川ァ、お前は余計な気ィ使わなくていいからそこ座ってろ」 一方通行(アクセラレータ)はそう言うと今度こそ本当にリビングを出て行った。 「わ、私、嫌われたのかなぁー」 「愛穂……、あなた大丈夫?」 「大丈夫じゃ無いじゃんよー。どーしよー桔梗ぉー」 「うわっ!? お、落ち着きなさい愛穂っ。ま、まだそうと決まった訳じゃないでしょう?」 そうして芳川が力いっぱい抱きついてくる黄泉川をなだめていると、さほど遠くも無い場所から何とも朝に不釣合いなけたたましい悲鳴が聞こえて来た。 そして程なくどたどたと足音が近づいて来て、 「大変、大変、タイヘ――――ン!! てミサカはミサカは驚愕の事実を報告しに来てみたりっ! あの人の胸にふくよかな物が二つ確かに付いていました!! てミサカはミサカは裸の付き合いもした事があるあの人に、まさか……、まさかぁぁぁぁあああああああああ……!!」 「うるせェ、クソガキ。埃が立つからさっさと座って大人しくしてやがれ」 「あう゛っ!?」 リビングに入ってきたと思ったら、いきなり錯乱状態全開だった打ち止め(ラストオーダー)は後から入ってきた一方通行(アクセラレータ)に平手で頭をはたかれて2、3歩前によろめくと、頭を押さえてさも恨めしそうに一方通行(アクセラレータ)の顔を見上げた。 そして急に一方通行(アクセラレータ)の腰の辺りに抱きつくと、 「う゛ー。じゃあじゃあ大人しくするから教えてよ! ってミサカはミサカはあなたの秘密に迫ってみたりっ!」 「こら、テメェはシャツにしがみつくな! 伸びンだろおがよォ」 「いーやーだー、話してくれるまで放さないー、ってミサカはミサカは実力行使も持さない構えを見せてみたりっ!」 流石に背中の辺りをめくられたので抵抗を始めた一方通行(アクセラレータ)に、なおも打ち止め(ラストオーダー)は食い下がる。 「めンどくせェなァ、朝飯ン後じゃ駄目なのかよ」 「駄目駄目駄目ぇー、美味しい食事を味わうには心身共に健やかでなくてはいけないのっ! ってミサカはミサカは舌先三寸であなたを篭絡しようと努力してみたりっ!!」 「チッ。なンだっつうンだその言い草わ……。クソッ、ンな事しててせっかく焼いた魚が冷めちまったらどォしてくれンだテメエはよォ?」 酷く鬱陶しそうな表情を浮かべた一方通行(アクセラレータ)はブツブツ文句を言う。 しかし、打ち止め(ラストオーダー)の飽くなき探究心に折れたのか、そう言いつつも自分の首の後ろに手を回してリボンを解いた。 すると、一方通行(アクセラレータ)が身に付けていたエプロンの胸の辺りがふわりと前に落ちて、興味心身に見上げていた打ち止め(ラストオーダー)の顔を覆う。 「わぷっ!?」 「抱きついてっからだ。バーカ」 そんな中、ソファーの上で2人のやり取りを眺めていた芳川と黄泉川は目に飛び込んで来た光景に凍り付いていた。 「ナニ、ソ、レ……?」 「あン? テメェらにも付いてンだろうがよ」 芳川が掠れた声でそう言ったのを聞き逃さなかった一方通行(アクセラレータ)は、2人の方に向き直ると胸を張って見せた。 そこには何故か、シャツを押し上げる2つの膨らみが見て取れるが……。 「いや、だ、だから、何でそうなってるの?」 「あァそっちか。たまにな……、女みたくなる時があンだよ」 今度は珍しく悲鳴に近い叫び声を上げた芳川に、一方通行(アクセラレータ)は面倒くさそうに答えた。 それから何か思いついたらしく片方の眉を持ち上げると、 「な、芳川ァ。テメェ原因判ンねェかなァ? 多分ホルモンバランスのせいだと思うンだが……、こうなっちまうと、戻るまで落ち着かねェんだよなァ」 そう言って肩をすくめると、シャツの下で膨らみが微かに揺れた。 「戻るのそれ?」 「あ? だから今そォ言っただろォが」 芳川の何と研究者らしからぬ答えに、一方通行(アクセラレータ)の眉間に深い皺が刻まれる。 「あ、ああ、そ、そうね」 こりゃ話になンねェな、と判断した一方通行(アクセラレータ)は深くため息を付いてから「飯にすンぞ」と言いながら腰に打ち止め(ラストオーダー)を纏わり付かせたままリビングを出て行った。 それから程なくして、打ち止め(ラストオーダー)の妨害を乗り越えて朝食の準備が出来た。 今、目の前にこれでもかと言うくらい、純和風の朝の食卓が広がっている。 それらを黙々と平らげて行く4人。 初めの頃こそは、皆が皆、一口口に運ぶごとに一方通行(アクセラレータ)の腕を称賛したが、「いいから黙って喰いやがれ」と言われてからはこの状態が続いている。 その、皆を黙らせた張本人はと言うと、皆がソファーに座って食事する中、一人床に膝立ちで食事していた。 芳川たちはその姿を見ていると何故か背筋が伸びてしまう。 そんな息詰まる食卓では黄泉川が味噌汁のお椀をテーブルの上に置いた。 その途端、 「黄泉川、味噌汁のお代わりは?」 一方通行(アクセラレータ)がお茶碗と箸を置いて黄泉川の方に手を伸ばしてきた。 「じ、じゃ、貰う、じゃん」 「あァ」 黄泉川から味噌汁のお椀を受け取った一方通行(アクセラレータ)はすっと立ち上がると台所に向かった。 終始この調子で誰かのお椀が開くと『お代わり』を聞かれるのだ。 一方通行(アクセラレータ)が床に膝立ちだったのも、どうやら素早く給仕為の様だ。 台所から戻ってきた一方通行(アクセラレータ)は黄泉川にお椀を渡すと、今度は芳川のご飯茶碗に目をつけた。 「芳川は?」 「私はもう結構よ。ごちそうさまでした」 若干頬を引き攣らせる芳川は、先ほど3杯目を完食したばかりだ。 芳川に上手くかわされた一方通行(アクセラレータ)は、次の狙いを打ち止め(ラストオーダー)に決めたようだ。 「おいクソガキ、テメェはスプーンで飯零すたァ、どンだけ不器用なンだっつゥの」 と言いながら、床や服に零れたご飯を摘み上げる。 そして、 「オラオラ。テメェはその頬に付けた飯粒を何処に持って行くつもりだ」 と言って摘み上げると、あろう事か口に運んでしまった。 「「コブッ!?」」 その光景を見てしまった芳川と黄泉川は、それぞれお茶と味噌汁を拭いた。 「わーいわーい、何だかお母さんみたいだね、ってミサカはミサカは素直に現状を喜んでみたりっ! でもでも、そーしたら私が『パパ』? ってミサカはミサカは超えられない壁を前に愕然としてみる」 「(チッ)」 一方通行(アクセラレータ)は、ひとり百面相をする打ち止め(ラストオーダー)に小さく舌打ちすると、元の位置に戻って静かに食事を再開した。 そんな一部始終を共に体感した芳川と黄泉川は顔を見合わせると、 「(確かに理想の母親像よね)」 「(むしろ私からしたら嫁に欲しいくらいじゃんよ)」 小声でそう言い合うと、もう一度確認するかのようにチラッと一方通行(アクセラレータ)の方を見た。 「ンだよ?」 「「いぇ、別に何でも……」」 一方通行(アクセラレータ)に睨まれた2人は、不埒な事を考えていた事を誤魔化す為に目の前にあった湯飲みをぐっとあおった。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 室内に固い音を響かせながら白い人物が入ってきても、その事を気に留めるものは誰もいない――筈であった。 「お? そんなもの下げて来て。そいつは一体どうしたんだにゃー」 そう言っておどけた調子を見せるのは、こんな薄暗い場所でもサングラスを外さない金髪の少年、土御門元春である。 すると、その言葉に釣られるように部屋のそれぞれの場所に離れて思い思いの事をしていたもの達が顔を上げると一方通行(アクセラレータ)に注目する。 皆の注目の的になった一方通行(アクセラレータ)は、自分の左手に下げられた物をしばし見つめてから気持ち持ち上げて見せると、 「あ? 見て判ンねェのか」 「花なのは判るにゃー。それをどうするのか聞きたいんだにゃー」 土御門がそう食い下がるが、一方通行(アクセラレータ)の方はそれ以上話をする気も無い様子で、何事も無かったように杖の音を響かせながら歩き出す。 「誰かの命日……か何かでしたか?」 そう言ったのは優しげな顔立ちの少年、海原光貴――姿を借りて行動しているアステカの魔術師エツァリ――である。 「あ! なぁるほどにゃー……。って、んな訳あるかっ!?」 海原の言葉と、その後の土御門のノリツッコミに一瞬立ち止まった一方通行(アクセラレータ)だったが、 「…………」 背中越しに無言で暫く2人を見つめた後、小さく鼻で息を吐くと目の前のテーブルに手提げを置くと、その中から花の鉢植えを取り出した。 くすみひとつ無い真っ白な八重のパンジー――一方通行(アクセラレータ)はそれを一緒の袋に入っていた水受けの皿の上に載せながら、 「道端で花なンか売ってるうるせェガキどもがいたンでな……頂いて来た」 「ん?」 「え?」 「あ?」 その一言に、既に興味を無くしかけていた3人が一斉に一方通行(アクセラレータ)の方を振り返る。 そして、そんな彼らの記憶にはある光景が思い浮かんでいた。 それは実に取るに足らない日常のとあるひとコマ――そこでは子供たちが路上に並べた色とりどりの花を売っていた。 社会勉強の一環なのだろうか? 子供特有の熱心さと無邪気さでだれかれ構わず道行く人を見つけては声を掛けている。 通行人は嫌々ながら――その実満更でもなく、子供たちに手を引かれて植木鉢の前に連れて行かれる。 そして、花がひとつ売れるたびに上がる大歓声。 ここからそう遠くない場所で繰り広げられていた、彼らとは全く関係の無い筈の平和なひとコマ……。 「おいおい、まさか……、冗談、だよなぁ?」 土御門が遊びの無い口調で彼がそう言うと、 「一方通行(アクセラレータ)、どう言う事か説明してください」 「貴方一体何してきたの?」 海原も結標も、彼らにしては珍しく厳しい顔で一方通行(アクセラレータ)を見つめた。 しかし、当の一方通行(アクセラレータ)は唇の端を吊り上げて笑みの形にすると、 「おいおいおォい。俺が何して来よォがテメエらにあれこれ言われる筋合いはねェ筈だよなァ。大体いつかららテメエらは正儀の味方になっちまったンだ、ンンッ?」 厳しい表情の3人に背を向けたまま、あざけるように言い放った。 その一言に3人が押し黙ると、彼らの間に重苦しい空気が流れる。 そして静まり返った室内には、ビニール袋の擦れる音や、時折一方通行(アクセラレータ)が漏らす微かな呟きだけが支配した――そんな時、 「ちょっと出掛けて来ます」 そう言って海原は立ち上がると出口に向かって歩き出した。 すると、 「おい海原。だったらついでに缶コーヒー買って来てくンねえかな。4人分よォ……」 この状況でまさかの使いっ走り扱いに、海原は無表情に一方通行(アクセラレータ)を見据える。 「……判りました」 「おう、頼ンだぜ」 そして静かに海原が出てゆくと、一方通行(アクセラレータ)は深い溜息をついた。 「ふー……、しっかし今更だがキタネェとこだなァここはよォ。花ァ飾ったくらいじゃどォにもなンねェなァこれは」 そう零すと杖の音を響かせながら部屋を出て行ってしまった。 後に残されたのは土御門と結標――その結標は土御門に視線を送ると、 「何なのあいつ?」 「ふ。奴の考える事は俺には判らんにゃー」 「フン」 土御門が肩をすくめながら答えたのを、鼻で軽くあしらった結標は、今の騒動に興味を無くしたかのようにソファーに深く座ると片膝を抱えて床を見つめた。 所詮は赤の他人同士、一方通行(アクセラレータ)が何をしようと、海原が何処に行こうと知った事では無い。 結標がそんな事を考えていると、先ほど出て行った一方通行(アクセラレータ)が戻って来た――その手にマグカップと白い布切れをぶら下げて。 結標は、目の前を横切ってゆく一方通行(アクセラレータ)を目だけで追う。 そんな一方通行(アクセラレータ)は先ほどのテーブルまで行くと、まずテーブルに布を置いてから、マグカップを鉢植えに斜めに寄せた。 それを数回繰り返すと、そのマグカップを椅子のひとつの上に置いた。 そして先ほどテーブルの上に置いた布切れを手に取ると、 「え?」 一方通行(アクセラレータ)がテーブルの上を拭いている――その光景に結標は小さく声を上げると身を乗り出した。 「ちょ、ちょっと一方通行(アクセラレータ)ァ!? 貴方今度は一体何の真似よ?」 背中から大声で名前を呼ばれた一方通行(アクセラレータ)が振り返る。 「あ? テーブル拭いただけだろォが。何目の色変えてンだテメエは」 確かにそうなのだが、結標としては何だか居心地が悪い。 最近、某所で居候の身となった結標。 そこの家主は教師で、結標に色々な事を教えてくれる。 その中には家事もあった。 『結標ちゃんは中々教え甲斐が有りますねー。ねえ結標ちゃん。結標ちゃんは女の子ちゃんなのですから、家事は出来た方が色々といいのですよー』 そんな家主の言葉を思い出して、結標はむすっとしながらソファーの上で両膝を抱えて一方通行(アクセラレータ)を睨んでいた。 (あの場所は本来私の場所なのに……。花だって本当は女の私が飾るのが筋ってモンでしょ! それが判んないのかしらあいつ……?) 結標が悶々とそんな事を考えている側では、土御門が何やら椅子の上で海老反りなりながら、 「惜しっ! 後もうちょっとだにゃー……、あー見えそうで見えないスカートの中ってのは、男の浪漫を掻き立てるにゃー」 などと何か呟いていたそんな時だった。 「ただ今戻りました」 そう言って海原が帰ってくると、皆の視線が海原一人に集まった。 そんな海原の胸には紙袋が抱かれていて部屋の中にコーヒー独特の香ばしい香りが漂う。 その香りに一方通行(アクセラレータ)は目を細めながら、 「遅ェと思ったら何処までコーヒー買いに行ったンだ?」 「たまには缶では無く本格的なコーヒーでも如何ですか?」 そう言いながら海原は一方通行(アクセラレータ)が掃除していたテーブルの上に紙袋を置くと、中からコーヒーの入った紙コップを取り出して並べてゆく。 「フン」 面白くないと言わんばかりに鼻を鳴らした一方通行(アクセラレータ)は、布とマグカップを手に取ると部屋を出てゆく。 すると、入れ替わるように海原の周りに土御門と結標が寄ってきた。 「「で、どうだった(の)?」」 そんな2人に海原は軽く肩をすくめると、 「子供たちは何事も無く花を売ってましたよ――それとなく話を聞いたんですが、どうやらちゃんとお金を払って買ったみたいで……」 その言葉に土御門が唖然とする。 「あいつが花に金をにゃー……? あ、いや……まぁ、一方通行(アクセラレータ)は利害でもなけりゃ一般人には手を出さない事は知ってるが……」 「『心気クセェあいつらにはぴったりだ』とか言って、沢山ある中からこの花を買って行ったそうです」 「モ、モノまね……、かにゃ?」 「?」 小首を傾げた土御門からの突っ込みに海原は訳も判らずキョトンとした。 結標はそんな2人を置いて腕組みをして真剣に悩んでいた。 「辛気臭いは余計だけど……、一体何がしたいのかしら?」 そんな時――。 「『物想い』、『純愛』、『心の平和』」 「「「!?」」」 背後からの声に3人が振り返ると、そこにはキャスターテーブルを押した一方通行(アクセラレータ)がいた。 「テメエらにぴったりの花言葉だろ?」 そう言いながら一方通行(アクセラレータ)はキャスターテーブルを押して近づいてくる。 「それより食いモン用意したからテメエらそこに座れ」 確かに彼が言うように、キャスターテーブルの上には皿に乗ったケーキが3つと、切り分けられた残りのホールが大皿に乗っていた。 「オイ、これ……?」 「俺が焼いた」 呆然としながら事情を聞いてきた土御門に、一方通行(アクセラレータ)はぶっきら棒に答える。 「な、何ですか今日の貴方は?」 「…………」 その答えに唖然とする海原、そして何だか負けた気分に打ちひしがれて声も出ない結標。 何が何だか判らないままの3人は、一方通行(アクセラレータ)言われたとおりに椅子に腰掛けた。 すると一方通行(アクセラレータ)は、ひとりひとりの前に皿に載せられたケーキと、その皿の上にフォークを添えてゆく。 そして、手際よく全員の準備が整うと、 「ヨシ、食え」 3人は何だか餌付けされた犬の気分を味わいながらもケーキにフォークを入れる。 「(な、何でこんな事になってるのかにゃー?)」 「(し、知りませんよそんな事。貴方が何かしたんじゃないでしょうね?)」 「(何か色々と人生が嫌になるわ……)」 「オイ! こそこそ話してねェでさっさと食え!」 一方通行(アクセラレータ)の言葉に、3人はおそるおそるケーキを一口口に運んだ。と次の瞬間――。 「「「!!」」」 無言で3人の肩が大きく震えた。 それを見た一方通行(アクセラレータ)はにわかに眉を寄せると、 「どうだ、食えそうか?」 不安そうに3人の顔を覗き込んだ。 ところが、 「食えそう何てもんじゃ無いにゃー。これは中々良く出来たチーズケーキぜよ」 「(……しゃくだけどおいしい)」 「大変申し上げにくいのですが……、僕は貴方の事を見くびっていました」 程度の差こそは有れど、3人ともケーキと、それを作った一方通行(アクセラレータ)に称賛の意を表す。 「フン。俺も炊飯器なンかでケーキ焼くのは初めてだったからちィと味が心配だったんだが……。そォか、食えたか」 一瞬不穏な発言があったような気がしたが、美味しい事は確かである。 「おい。見ての通りおかわりもあるから遠慮すンじゃねェぞ」 その言葉に3人は、それぞれの思いを胸にケーキに挑み――そしてケーキは瞬く間に平らげられた。 今は皆満足そうに海原の買って来たコーヒーを飲んでいる。 そんな折、結標が急に一方通行(アクセラレータ)向かって、 「一方通行(アクセラレータ)、貴方一体どうしちゃったのよ?」 「あァ、どォって?」 すると今度は海原が、 「そうですよ。花を飾ったり、掃除をしたり、手作りケーキをみんなに振舞ったり。普段の貴方からは到底考えられません」 「普段ってなンだよ?」 急に何だとばかりに、一方通行(アクセラレータ)はいぶかしむような表情を見せる。 「まず花です。何で花なんか買ってきたんですか?」 「花はアレだ。ガキどもに捕まって仕方なく……」 何故かばつが悪そうに海原に答える一方通行(アクセラレータ)。 「じゃ、いきなり掃除始めたのは何故? もしかして私にあてつけたんじゃ無いでしょうね?」 「ハァ? 掃除ってただテーブル拭いただけだろォが。花ァ飾ンのにテーブルがキタねェんじゃ格好つかねェからよォ。それにケーキ食えるようなテーブルこれしかねェだろ? 大体あてつけって何だ? 俺がテメエに何張り合うっつゥンだよ」 「ぇ……、ぁ……、じゃ、じゃあケーキは何よっ!? 最近家事全般見習い中の私に対する挑戦じゃないの? 『テメエの実力じゃァ俺の影すら踏む事は出来ねェンだよォ』とか思ってんじゃないでしょうね!?」 「モノまね……、流行ってるのかにゃー?」 「頭大丈夫かテメエ……? ケーキはたまたま……そンな気分になったから焼いたンだ。ここ数日、どォも何かしてねェと落ち着かなくてな……」 何だか妙なテンションで食い下がる結標にちょっと気おされ気味な一方通行(アクセラレータ)と言う珍しい光景が繰り広げられていたのだが、 「ゥ……っっ……」 「ど、どうしたのよ急に?」 結標は、一方通行(アクセラレータ)が急にテーブルの上に突っ伏してしまったので、彼女にしては珍しく慌ててしまう。 「さっきから下っ腹の辺りがな……っっ。ンなァンかめンどクセェ事になりそォな気がすっから……ゥ。悪ィが帰らせてもらうぜ」 そう言って一方通行(アクセラレータ)は椅子から立ち上がると、キャスターテーブルを押しながら……、と言うか少しもたれ掛かりながら歩き出した。 「大丈夫なんですか一方通行(アクセラレータ)? 医務室で休ま――」 「あそこは駄目だ。これ以上ふざけた真似されたら俺はこの場所を消す……まだここには利用価値があるからなァ……」 一方通行(アクセラレータ)はそう言うと、それ以上何か言いたそうな海原を無視して部屋を出て行った。 「帰っちゃった……」 結標はそう言うと、脱力してテーブルの上に突っ伏した。 その時、今まで沈黙を保っていた土御門がグイッとテーブルの上に身を乗り出してきた。 「それより気が付いてたかお前ら」 「いたんですか土御門?」 土御門の言葉に水を差すような海原の一言に、土御門は口をまっすぐにつぐむと肩を震わせた。 「鬱陶しいから声を消して泣かないで下さい――で、何がですか?」 「んー……、オホン。よろしいかな各々方、一方通行(アクセラレータ)に胸があったの気がついたかにゃー?」 「え?」 「ま、まあ、うすうす……」 土御門の言葉に唖然とする結標と、何故かばつが悪そうに視線を虚空にさ迷わせる海原。 「この土御門サンの見立てでは結標より大きいと見た! しかもノーブラ!!」 「それで?」 力強く人差し指を立てて豪語する土御門に、その馬鹿さ加減に我に返った結標は本来のクールさで冷ややかに返した。 「さすが空間移動能力者は露出狂が多いだけあって――」 「あの世の果てまで飛ばしてあげましょうか?」 「それはご免被るにゃー」 土御門と結標が漫才を繰り広げる横で、にわかに現実に帰って来た海原がテーブルに両手を付いて立ち上がった。 「しかしですよ! 何故彼に『胸』があるんですか? まさか性転換して……?」 「俺が掴んだ情報よると、一方通行(アクセラレータ)は今、体が女性化してるらしいにゃー」 「「!?」」 土御門の思わぬ一言に2人の驚きの眼差しが集中する。 「か、科学側では性別反転もアリなんですか?」 「科学側って何の話してんのよ?」 「ま、これも噂なんだがにゃー。暫くしたら元に戻るらしいから、俺らはいーつも通りに接してやればいいんだにゃー」 そう言ってから土御門はコーヒーの残りをお茶でも飲むようにすすった。 そして土御門の言葉に、海原と結標は顔を見合わせると一方通行(アクセラレータ)の出て行ったドアをただ黙って見つめるのだった。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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二人の恋する乙女 「ろ、露伴先生!?何でここに?」 康一は、驚いていた。何しろ、見知らぬ土地で風紀委員と言う名の治安維持部隊に追いかけられ、逃げ回っている最中に ここにいるはずのない、知り合いに出会ったのだから当然といえば当然だ。 「康一君ッ!?」 露伴が普段冷静な彼だとは思えないほどの、驚いた顔をしている。 「なんで、君たちがここにいるんだ?」 露伴が質問してくる。 康一は、息切れしていて中々答えられないので、代わりに横にいた由花子が答える。 「私達、修学旅行でここにきたんです。それで、今ジャッジメントとかいうやつに追いかけられていて…」 由花子は話しながら、康一を大丈夫?とか言いながら心配している。 「ろ、露伴先生こそ、ハーハー、何で、ハーハー、こ、ここにいるんですか?」 「ああ、私か?私はサイン会でここに来ているのだよ。」 露伴は思い出したように自分の当初の目的を話す。 その時。 「そこの二人!とまるんじゃん!」 康一と由花子を呼び止める声がする。 声がした方には、身を防護服で固めたアンチスキルの黄泉川愛穂と鉄装綴里がいた。 実は、彼女たちは休日のため食品街を巡回していたところ、初春飾利に会い事情を聞かされ、不審者を追いかけていたのだ。 そして、今初春の情報と合致する人物を見つけたというわけだ。 「な、何でしょうか?」 康一が引きつった笑顔で答える。 「あんたら、さっきスキルアウトをボコボコにしたらしいんじゃん。見かけない制服着てるし、事情聴取したいんじゃん。」 黄泉川が康一に告げる。 すると、 「康一君は何もしていないわ!私がやったの!」 と由花子が康一を庇う。 さらに、小声で 「康一君は逃げて、私がなんとかする。」 と告げる。 「で、でも…」 「いいから逃げて!私は大丈夫よ。こんな奴ら屁でも無いわ。」 「分かったよ。由花子さん無茶しちゃダメだよ?」 「ええ。わかってるわ。」 二人は言葉を交わすと、康一は一目散に逃げ出す。由花子を信頼しているからこそできることなのだが。 「そこの少年待つじゃん!」 康一を黄泉川と鉄装が追いかけようとする、はずだった。 しかし、黄泉川と鉄装は動けない。 足が何か黒いもので縛られている。 「ひえぇぇぇぇ。」 鉄装は情けない声を出す。 さらにその黒いものは足から這い上がって、体までも締め付け始める。 そこで、黄泉川は気づくこの黒いものが、由花子の髪だということを。 「そこらの奴ら!危ないから逃げるじゃん!」 黄泉川が腰の銃を引き抜きながら叫ぶ。 目の前の様子を見ていたサイン会に集まっていた客が、ワーッと逃げ出す。 インデックスも例外になく逃げようとする。しかし、彼女は身動きひとつしない御坂美琴をみて 「短髪!逃げろって言われてるんだよ!?」 インデックスは悲痛な叫びを美琴にぶつける。 銃を用意する黄泉川たちを見ていた美琴は 「あの女が何者か分からないけど、あの二人がこのままやられるのを放っておけって言うの!?」 美琴の目線のさきでアンチスキル二人が、どんどんと由花子の髪によって締め付けられる。 ついに、あまりの苦しさに銃をポトリと取り落とす。 「ぐあぁぁぁ」 「ひあぁぁぁ」 二人が悲鳴をこぼすものも、由花子は全く緩める様子が無い。 この状況を見かねた美琴は、何か言って袖を引っ張るインデックスに 「アンタは逃げなさい。」 と一言残し、由花子に向かってゆく。 その間にも、黄泉川たちは髪にどんどん縛られていく。 そしてついに、鉄装が気絶してしまう。 「鉄装?鉄装?」 黄泉川は悲痛な声を上げる。 だが、その直後黄泉川は自分の体がフッと楽になるのを感じた。 状況が理解できずに、由花子を見る。 なんと、由花子の髪が切断されていた。状況を把握した黄泉川は、安心したためか気を失ってしまった。 「な、なによ!?何なの!?今の雷は!?」 由花子は自分の髪が傷つけられたことに憤慨して、叫んでいる。 「私よ。」 憤慨している由花子に、美琴が告げる。 「アンタの髪を切断したのは私。」 確認するように、もう一度同じ内容を告げる。 「由花子って昔から興奮すると、(眼輪筋)ってところがピクピクしてちょっと暴力的になるの。」 まぶたをピクつかせている由花子が何か話している。 「?何言ってるの?アンタ?」 美琴は脳神経に電撃が効いてしまったのかと、心配しながら問いかける。 「アンタはブチコロシ確定よーッッッ!このビリビリ女!」 「ラブ・デラックス!!」 由花子の髪の毛が猛然と美琴に襲い掛かる。 しかし、その髪の毛は美琴の電撃をうけ燃えてしまった。 「そんな攻撃、レベル5の私に効くと思ったわけ?」 「なめてんじゃ無いわよッ!」 今度は美琴の電撃が由花子に襲い掛かる。 由花子は髪の毛で近くの木をつかみ、飛び上がって電撃をよける。 「髪の毛を操る能力なんて効いたこと無いけど、私の攻撃それぐらいでよけたと思ってんじゃないわよね?」 美琴がそう告げるとともに、由花子に電撃が走る。 「!」 美琴の放った電撃が、木を伝いまたその木をつかんだ髪を伝い由花子に流れていったのだ。 ボトッと気を失った由花子は地面に落ちる。 彼女は気を失う直前に、康一のことを思っていたためかその顔は微笑んでいる。 「手加減はしたけど、死んでないわよね…」 美琴は由花子に近づき、心臓が動いているのを確かめる。 彼女の心臓はまだ動いていた。 「よかった…、それにしても髪の毛操るなんて面白い能力よね。どんな力使ってんのかしら?」 ほっとひと安心した美琴であった。 to be continued...
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6 「お嬢ちゃん、ちょっと待つじゃんよ」 繁華街を出て、ものの数分。 警備員の詰所を過ぎたところで、突然声をかけられて天井は急ブレーキを敢行。 学校指定スニーカーの靴底は、アスファルトの地面との間で激しく音を発てた。 完全に殺し切れていない制動の勢いを、上半身に残したまま半ば強引に振り返り、 「お嬢ちゃんって言うなっ!」 と、激昂。あまりの剣幕に、通行人の視線が天井に集中した。 「お嬢ちゃんはお嬢ちゃんじゃんよ。とんがらずに『可愛い』って言われてると受け取れば、別段腹なんか立たないじゃんよ」 声の主は、詰所の中に居た一人の女性警備員。 天井の記憶から一人の人物の名前が浮かび上がり、警戒レベルを強化させた。 黄泉川愛穂。天井の学校の体育教師。兼、学園都市の治安組織『警備員』の一員。強能力者程度ならポリカーボネートの盾で、相手が泣くまでどつきまわす事で有名。 正直、関係は『顔見知り』程度で抑えたいと思っている人物だったりもする。 「黄泉川……」 「ちっがーうじゃんよ!」 天井が言い切るより早く、女性の手が天井の頭を鷲掴みにした。俗に言うアイアンクローだが、それを片手で行う黄泉川の腕力たるや、女性にしては相当な物だ。女性特有のしなやかさを残したまま、よく鍛えられていると感心するところだろうか、それとも素直に泣くべきか。 (ぐぁあ、笑顔で込める力じゃねぇ) 頭蓋骨がなんだかミシミシと悲鳴をあげている気がするのは、おそらく気のせいだけでは無いのだろう。 叫びたいけど、うまく声が出ない。天井的な警戒レベルが一気に跳ね上がる。危険度の示す針は危険ゲージの赤いラインに猛然と突っ込み、ワーニンッ! ワーニンッ! と危険信号が鳴り響きっぱなしだ。 要するに痛いのだ。 天井のどこか冷静な部分が『さて、人間の頭蓋骨ってどれぐらいの圧力に耐えれるんだっけか?』と明日から使える無駄知識を考え、現実逃避を開始。気のせいか、幾分か痛みが和らいだ気がする。 が、当の黄泉川からしてみれば、天井の脳内でどんなトリビアが生まれていようと、ダンマリを決め込んでいる様にしか見えないわけで……。 当然、その右手には更に力が込められる事になる。 「ぐぁぁああああぁ! よみかわぁ!」 「黄泉川先生じゃんよ? 天井のお嬢ちゃんは冗談が上手いじゃんよ――あんまりおもしろすぎて、先生思わず右手に力がこもっちゃうじゃん?」 「こもってる! もう十分こもってる!」 「まだまだ上があるじゃんよ」 「う、上っ?」 「うん、上じゃん」 頭砕かれちゃ堪らない。宙吊りの体勢では、どうしようもない事だし、と天井は要求に従う事にする。 長い物には巻かれろ。これも処世術だ。 目尻に涙を浮かべ、 「・・・・・・ごめんなさい、黄泉川せんせい、お願いだから離してください……」 と、懇願したとしても誰も天井を責められない。 『先生』と呼ばれて満足した黄泉川は天井を解放。 詰所の中からは黄泉川の同僚達であろう数人の警備員が『大人気無いですよ、黄泉川先生……』との声をあげている。 まったく同感だ、と顔をさすりさすり、同意する天井。 (こんなのが教師でいいのかな……) と思いつつも、天井が知っている『大人』という分類の中では、黄泉川愛穂は割とマトモな部類に入る。もっとも、これはマトモじゃない『大人』を、天井が少し知りすぎているだけかも知れないが……。 「教師の勤務時間は終わってるんだろう?」 「おっと、天井のお嬢ちゃん。それは違うじゃんよ。私の教師って言うのは二十四時間営業なんだ。むしろ職業って言うよりは、生き方なんじゃんよ。だからこれからは、私に会ったらキチンと『黄泉川せんせー』って呼ぶじゃん? っていうか、アンタは少し言葉遣いに気を配るべきじゃんよ」 「めんどくさ……」 再び襲い来る黄泉川の手×二。天井のこめかみに黄泉川の両拳がぐりぐりと捻じ込まれる。 「よみかわせんせー」 「よし。まあ、立ち話もなんだから中に入るじゃんよ。心配しなくても問答無用で補導したりはしないじゃんよ、私は寛大だから」 寛大だというのなら、言葉遣いくらいは大目に見て欲しい。そして今回もまるごと見逃して欲しい。 「例の新しい委員会の件で出歩いてるじゃん?」 「いえ、別に委員会絡みでは無いんですが……」 「だったら、こんな時間に出歩くのは感心しないじゃん? うちの学校の寮は確かに門限は無いけど、教師としては生徒の夜遊びを見過ごすわけにはいかないじゃんよ。そんなだから月読先生が休憩時間に吸うタバコの量が右肩上がりなんじゃんよー」 「遊びでも無いんだけど……」 遊びでないのは天井で、ひのからすれば遊び感覚かも知れないが。かくれんぼ程度と認識している可能性も否定できない。 (あと、小萌先生が吸うタバコの量が多いのは別の問題だと思うが) さて、どう説明したものか。天井は頭を捻った。 当事者達以外から見れば、それこそ、かくれんぼの鬼が見付からない程度の事。 正直、天井がひのを見つければ済む話で黄泉川には、「別になんでも無いです」と知らばっくれるのが天井好みの選択だ。反面、素直にひのの事を話して探すのを手伝ってもらうのも割と悪くない様に思える。 むしろ渡りに船。 何せ警備員だ。それも警備員兼教師。徘徊している不審な生徒の情報なんてものは、当然共有しているだろうし、天井の事を邪険に扱ったりはしないだろう。それに監視カメラを使う手もある。ひのがどこに居ようとどこかのカメラには移っている筈。そして学園都市中にほぼ死角無しの状態で点在する監視カメラの映像を閲覧できるのは、公務中の風紀委員を除けば警備員ぐらい。 天井は自分の制服の袖にある白い腕章に目線を落とした。 白い腕章のフチには二本の赤い線が走っており、中央には赤い十字の刻まれた盾を模したマーク。天井が所属する組織『保健委員』である事を証明する目印の様な物。その辺りは風紀委員と同様だ。 天井も公務中なら権限を使って閲覧する事が出来るのだが、生憎と今はプライベート。当然監視カメラなど機密性の高い情報の閲覧は不可能。 (選択肢はほとんど無いに等しいって状況が多すぎるな、私の人生には) 天井は黄泉川の協力を仰ぐ事にした。 もともとひのと接触できるかすら怪しい状況なのだ、四の五の言っていたら日付が変わってしまうだろう。 自分が思う中で、最も可愛く。そして下から見上げる視線により自分より背が高い相手の保護欲をかきたてる事間違い無しの会心の『ポーズ』を繰り出す。 「あの……黄泉川せんせ。ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」 (よし、決まった! これで大抵は落ちる!) が、反応は無い。 (あ、あれ?) というか、いつの間にか天井とは逆の方向を向いている。 「おーい・・・・・・」 同僚の警備員達数名に囲まれた黄泉川はしきりになにかを見せている。 きっと、ワイワイと詰所の中が騒がしいので、聞こえなかったのだろう。 今度は近づいてから、 「よみかわせんせ。よみかわさーん、あいほせんせー」 反応無し。仕方なく直接その肩をツンツンと突っつく。 「ん?」 「何を見てるんですか?」 と、黄泉川が事務所椅子をくるりと回転させ、手に持っていた黒い携帯電話の液晶画面を天井に見せた。 「って、何見てるんだっ、黄泉川!」 「あんまりにも可愛らしいもので写メに撮ったじゃんよ、写真写りいいのは素直に羨ましいじゃん」 液晶画面に映っていたのは、天井の姿。制服姿で走る姿が液晶画面に映し出されていた。 黄泉川は天井の反応を楽しむ様に、携帯を操作して表示された画像を切り替えていく。 ぶかぶかの体操服で、すっころぶ天井。調理実習で指を切り、涙目でその指を咥えている天井。授業中うつらうつらと居眠りをする天井。コンビニで女性週刊誌を立ち読みする天井。少年漫画を買う時に下から新しいのを引っ張り出す天井。ゲームセンターのUFOキャッチャーでお目当ての人形に熱い視線を送る天井。そしてそれを取り損ねてご機嫌斜めの天井などなど。 「な、なんだこれ!?」 「アンタの写真、結構人気あるじゃんよ」 「いつの間に・・・・・・」 「黄泉川先輩、僕らにも見せて下さいよ」 と、男性警備員の一人。 「あー、だめだめ。会員以外にはみせらんない決まりじゃん」 「ですよねー」 と女性警備員が黄泉川に同意する。 (会員って何だよ・・・・・・) 断られた男性警備員は、仕方なく天井へと自らの携帯電話を向け、撮影しようと試みる。 「勝手に撮るな」 シャッターボタンを押されるより早く、天井の右手が青白い火花を散らした。 「あ。あれぇ、これ換えたばかりなのに、勝手に電源が落ちちゃった」 あたふたと携帯電話を弄る男性警備員を尻目に、天井は黄泉川へと向き直る。 「アンタの能力はそういう使い方も出来るんじゃん、てっきり治療専用の能力かと思ってたけど、意外と汎用性が高そうじゃんよ?」 「出力自体は大したこと無いんだ」 「でも、アンタの能力なら出力とか関係無さそうな気もするじゃんよ」 天井が黄泉川の携帯に向けて手をかざすと、黄泉川は慌てて携帯を仕舞った。 「隠すな」 「アンタの写真は一部の男性教師や男子生徒の間で絶大な人気を誇っているのは知ってるんじゃん? 九月初めに転入して来たのに学園都市美少女ランキングの上位に食い込んでるんだ」 「だからなんだ」 「先生てば、今月少し厳しいじゃん。何が厳しいって新しい家電を買いこんだら、結構な額になったじゃん、だから少しアルバイトをしたじゃんよ」 最近居候も増えてるし、大変なんじゃんよー、と黄泉川は笑い飛ばす。 「人の写真でアルバイトすんな教職員兼警備員! 終いには訴えるぞ!」 「いやぁ、先生の周りには月読先生や天井みたいな年の割にちっこい子が多くて不思議なんじゃんよー、当然、普通の人間なら、ずばり若さの秘密は何だろうねぇって思うじゃん? 最初は月読先生だけで満足してたんだけど、面白くなってランキングとか作ってみたら、これが大当たりだったじゃんよ」 「そっちもお前が元凶か!」 「ちなみに何故か私自身も美人ランキングの方には名前が載ってるじゃん、現在上位争奪戦じゃんよ、目下のライバルは冥土返し医師と火燈っていう看護婦じゃん」 「それ自慢してるだけだろっ! 巨乳お断り! グラビア系モデル体系お断り!」 「胸が大きいのも結構大変なんじゃんよ? 下着のデザインでかわいいのは無いし、肩は凝るし、Tシャツは胸のところだけ伸びるし」 「あぁ、なんかまた私とは無縁の言葉を口にっ!? ってか自慢する気マンマンじゃないか! 大は小を兼ねるとでも言いたいのか!」 「あんたのとこの保護者も結構大きいじゃんよ? サイズいくつなんじゃん?」 「知るか! 私は普通なんだ。世界の平均胸囲が私なんだ。年齢的に仕方ないんだ!」 それはどうかと思う、と警備員達が無言の突っ込み。 「アンタのクラスにも胸大きい娘の一人や二人いるじゃんよ?」 うなづく警備員達。警備員達は教師なのだから、きっと思い思いの想像の翼でも広げているのだろう。しかし、女性の警備員も頷いているのはどういう事だろうか? ともかく。黄泉川との進展の無い問答から開放されて、天井は一息ついた。 「うぅ、なんか余計に疲れた……」 ぼやいていると、どこからか携帯電話のカメラのシャッター音がする。顔を上げればそこには長い黒髪の女性警備員。 「こんばんわぁー。私、光陵学院高等部で国語の教師をしている逆月って言いますぅ、よろしくねぇ、天井さん」 黄泉川程では無いがスタイルが良い。サラサラの黒髪が腰あたりまで伸びており、先端は床に届きそうなまでに長い。前髪に隠れて表情が良くわからないが、彼女も警備員なのだろう、黄泉川や他の警備員と似たり寄ったりな服装をしている。カメラのシャッター音は彼女の右手にある二つ折りの携帯電話からだ。 「どうぞぉ・・・・・・」 天井の前に差し出される紙コップ。なみなみと満たされた黒い液体が湯気を発てている。コーヒーの『様な』香ばしい香りと白い湯気が寒い日には有難い。 「あ、ああ、ありがとう……」 「熱いので気を付けてくださいねぇ。」 物腰が丁寧で、少しおっとりとした伸び口調。声は小さめなので集中してないとうっかり聞き逃してしまいそうである。 天井の中で逆月の名前は良い人リストへと刻み込まれた。 (優しさが目に染みるとはこの事か……) 天井は弱弱しく紙コップを受取り、中身を一口含んだ。 そして。含んだ後に一拍置いてから、盛大に含んだものを「――ごふゅ……」と噴き出す。 黒いコーヒーっぽい物で出来た霧が、蛍光灯の光に反射してキラキラと輝いた。 逆月が「あぁ、今年の忘年会で使えそうな一発芸ぅ、名づけて『虹』ですねぇ。こんな高等テクニックを目に出来るなんてぇ、私この仕事してて良かったですぅ」などと拍手喝采。 「おおっ」 「すげえ」 「さすが天井」 釣られて詰所中から拍手が飛ぶ。 「おふゅ、へふゅ、はひゅ……」 喉というか、気管をピンポイントで襲う予想していなかった未知の味に激しく噎せ込み、天井が涙目気味に逆月を睨む。 逆月の名前は悪い人リストへとその名を移動した。 「なんだ、この得体のしれない飲み物は? コーヒーの面をした養命酒かなにかか!? それとも二日酔いの薬か!」 「あのぉ、気付けにいいかと思ってぇ……」 「何の気付けだ! って、ああ、もう。なんか涙が止まらないし、喉は痛いし、ついでになんかムカつくし!」 涙が止まらないのは恐らく気管に入ったせいだけでは無いだろう。味に驚いたから気管に入ったのだから。そもそも何を飲まされたのかすら判らない。 「学園都市の新製品ですぅ。警備員の特典、というか体の良い実験台なんですけどぅ。生徒達より先に新製品を味わう事が出来るんですよぅ。ちなみにそれは秋の新製品『必殺! 撲滅ヒーロー』っていうコーヒー風味の飲料ですぅ。実際にはカフェインなんて一グラムも入って無くて眠気なんて飛ばないんですぅ。疲労とヒーローが掛けてあるみたいで、コーヒー風味の中に無理やりビタミンCとかが入ってますぅ。あとベータカロチンも豊富で酸っぱ苦い感じ?」 スカートのポケットからハンカチを取り出して自らの口元を拭うと、天井はまだ『必殺! 撲滅ヒーロー』なる怪しげな液体が半分以上残っている紙コップを持って、ゆらりと立ち上がった。その姿は本場の幽霊も裸足で逃げ出す程。 「…………飲――……」 「えっ? ごめんなさい~、よく聞こえなかったんですよぉ。もう一度。もう一度だけ、お願いできますか?」 耳に手を当てて、天井に近づく逆月。きっと彼女は天井からお礼でも聞けると思っているのだろう。その顔にはありありと『私良いことした』が浮かんでいる。 「飲めるかぁっ!」 「あぁ、十代の激情ですかぁっ!? 私ってば反抗されてるんですねぇ!? なんか新鮮!」 「お前が飲め! この艶やかロングヘアー天然おっとり女がぁああ! 酸っぱ苦いって何だっ、初めて聞いたぞ、そんな感想!」 天井、右手に持った紙コップの中身を、逆月へと飲ませようとする。 「ひぁぁあああぁぁ、助けて、助けて! このチビッ子てば反抗期なんですよぉ」 「チビって言うなぁ! 誰が豆粒程度だ! 小さくて悪かったな! ああ、小さいよ、そりゃあもう体のあらゆるパーツが小さいよ、ミニマムだよ!」 「ひぁぁ! そこまで言ってませんよぉ」 虎の如く逆月に躍りかかる天井。物語のヒロインよろしく悲鳴をあげて床を後ずさる逆月。彼女の危機を救ったのは黄泉川の手だった。 飛び掛る寸前の天井を、空中で素早く小猫でも捕まえるように首根っこ掴んで確保。 天井は空中で逆月に届かない手足をジタバタとさせた。 「ちょ、放せ、よーみーかーわー」 「黄泉川ぁ先輩ぃ! やっぱり私をぉ助けてくれるんですねぇ。なんかぁ、こう、いろいろとありがとうございますぅ……でもなんで完全装備なんですか? むぎゅ」 いつの間にか黄泉川は、ヘルメットを脇に抱え、ポリカーボネートの透明な盾まで持っている。まるでこれから荒事にでも行くかの様。 「なんかそうやってると、マスコットキャラクターみたいじゃんよー、天井のお嬢ちゃん」 黄泉川、天井を背中に装着。 「アンタは私と一緒に来てもらうじゃんよ」 「え、いや私は警備員じゃ無いんだが・・・・・・」 「大丈夫じゃん、れっきとした『保健委員』のお仕事もあるじゃんよ」 「はっ?」 「アンタのとこのボスにも許可は貰っているじゃんよ、ほら行くじゃん、じゃんじゃん行くじゃん! 事件は詰所で起こってないんだ、現場で起こってるんだぁー」 「あ、もう、何がなんだか!」 黄泉川がじゃんじゃん言いながら詰め所を出て行こうとすると、逆月が黄泉川を呼び止める。 「黄泉川先輩ぃ、現場へは『直行』ですか?」 直行。呼んで字の如く、現場に直接向かう事。この場合はこの詰め所から行くという事だろう。 「それ、確認する意味あるのか・・・・・・」 黄泉川に背負われた天井の言葉に逆月はブンブンと顔を振る。縦に横に。 (どっちだよ・・・・・・) 「命にぃ関わりますかもぉ?」 「直行に決まってるじゃん」 「電車で?」 「車じゃん」 黄泉川の返答を聞くなり、逆月は「大変ですぅ、準備しませんとぅ」と奥へと走っていった。 そして黄泉川と天井以外の全員が何故か十字らしき物を切り、祈りを捧げ出す。ある男性警備員なんて『まだ若いのに可哀想に』などと涙する。 しばらくして逆月が持ってきたのは毒々しいパッケージの描かれた350ミリリットルの缶。見た事が無いのでこれも先刻の『必殺! 撲滅ヒーロー』と同じく実験飲料なのだろう。 「新製品『起こせ撃鉄、酔い止めDX』ですぅ!」 真剣な顔で続ける逆月。そして「これで何とか耐えてくださぃ」と何度も何度も念を押し、天井の手の中に冷たい感触の缶を押し込んできた。 天井がその真意を知るのは少し後の事。今はまだ呆けた表情を浮かべるのみ。
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Date 2010/02/12(Fri) Author SS 7-204 二人の恋する乙女 「ろ、露伴先生!?何でここに?」 康一は、驚いていた。何しろ、見知らぬ土地で風紀委員と言う名の治安維持部隊に追いかけられ、逃げ回っている最中に ここにいるはずのない、知り合いに出会ったのだから当然といえば当然だ。 「康一君ッ!?」 露伴が普段冷静な彼だとは思えないほどの、驚いた顔をしている。 「なんで、君たちがここにいるんだ?」 露伴が質問してくる。 康一は、息切れしていて中々答えられないので、代わりに横にいた由花子が答える。 「私達、修学旅行でここにきたんです。それで、今ジャッジメントとかいうやつに追いかけられていて…」 由花子は話しながら、康一を大丈夫?とか言いながら心配している。 「ろ、露伴先生こそ、ハーハー、何で、ハーハー、こ、ここにいるんですか?」 「ああ、私か?私はサイン会でここに来ているのだよ。」 露伴は思い出したように自分の当初の目的を話す。 その時。 「そこの二人!とまるんじゃん!」 康一と由花子を呼び止める声がする。 声がした方には、身を防護服で固めたアンチスキルの黄泉川愛穂と鉄装綴里がいた。 実は、彼女たちは休日のため食品街を巡回していたところ、初春飾利に会い事情を聞かされ、不審者を追いかけていたのだ。 そして、今初春の情報と合致する人物を見つけたというわけだ。 「な、何でしょうか?」 康一が引きつった笑顔で答える。 「あんたら、さっきスキルアウトをボコボコにしたらしいんじゃん。見かけない制服着てるし、事情聴取したいんじゃん。」 黄泉川が康一に告げる。 すると、 「康一君は何もしていないわ!私がやったの!」 と由花子が康一を庇う。 さらに、小声で 「康一君は逃げて、私がなんとかする。」 と告げる。 「で、でも…」 「いいから逃げて!私は大丈夫よ。こんな奴ら屁でも無いわ。」 「分かったよ。由花子さん無茶しちゃダメだよ?」 「ええ。わかってるわ。」 二人は言葉を交わすと、康一は一目散に逃げ出す。由花子を信頼しているからこそできることなのだが。 「そこの少年待つじゃん!」 康一を黄泉川と鉄装が追いかけようとする、はずだった。 しかし、黄泉川と鉄装は動けない。 足が何か黒いもので縛られている。 「ひえぇぇぇぇ。」 鉄装は情けない声を出す。 さらにその黒いものは足から這い上がって、体までも締め付け始める。 そこで、黄泉川は気づくこの黒いものが、由花子の髪だということを。 「そこらの奴ら!危ないから逃げるじゃん!」 黄泉川が腰の銃を引き抜きながら叫ぶ。 目の前の様子を見ていたサイン会に集まっていた客が、ワーッと逃げ出す。 インデックスも例外になく逃げようとする。しかし、彼女は身動きひとつしない御坂美琴をみて 「短髪!逃げろって言われてるんだよ!?」 インデックスは悲痛な叫びを美琴にぶつける。 銃を用意する黄泉川たちを見ていた美琴は 「あの女が何者か分からないけど、あの二人がこのままやられるのを放っておけって言うの!?」 美琴の目線のさきでアンチスキル二人が、どんどんと由花子の髪によって締め付けられる。 ついに、あまりの苦しさに銃をポトリと取り落とす。 「ぐあぁぁぁ」 「ひあぁぁぁ」 二人が悲鳴をこぼすものも、由花子は全く緩める様子が無い。 この状況を見かねた美琴は、何か言って袖を引っ張るインデックスに 「アンタは逃げなさい。」 と一言残し、由花子に向かってゆく。 その間にも、黄泉川たちは髪にどんどん縛られていく。 そしてついに、鉄装が気絶してしまう。 「鉄装?鉄装?」 黄泉川は悲痛な声を上げる。 だが、その直後黄泉川は自分の体がフッと楽になるのを感じた。 状況が理解できずに、由花子を見る。 なんと、由花子の髪が切断されていた。状況を把握した黄泉川は、安心したためか気を失ってしまった。 「な、なによ!?何なの!?今の雷は!?」 由花子は自分の髪が傷つけられたことに憤慨して、叫んでいる。 「私よ。」 憤慨している由花子に、美琴が告げる。 「アンタの髪を切断したのは私。」 確認するように、もう一度同じ内容を告げる。 「由花子って昔から興奮すると、(眼輪筋)ってところがピクピクしてちょっと暴力的になるの。」 まぶたをピクつかせている由花子が何か話している。 「?何言ってるの?アンタ?」 美琴は脳神経に電撃が効いてしまったのかと、心配しながら問いかける。 「アンタはブチコロシ確定よーッッッ!このビリビリ女!」 「ラブ・デラックス!!」 由花子の髪の毛が猛然と美琴に襲い掛かる。 しかし、その髪の毛は美琴の電撃をうけ燃えてしまった。 「そんな攻撃、レベル5の私に効くと思ったわけ?」 「なめてんじゃ無いわよッ!」 今度は美琴の電撃が由花子に襲い掛かる。 由花子は髪の毛で近くの木をつかみ、飛び上がって電撃をよける。 「髪の毛を操る能力なんて効いたこと無いけど、私の攻撃それぐらいでよけたと思ってんじゃないわよね?」 美琴がそう告げるとともに、由花子に電撃が走る。 「!」 美琴の放った電撃が、木を伝いまたその木をつかんだ髪を伝い由花子に流れていったのだ。 ボトッと気を失った由花子は地面に落ちる。 彼女は気を失う直前に、康一のことを思っていたためかその顔は微笑んでいる。 「手加減はしたけど、死んでないわよね…」 美琴は由花子に近づき、心臓が動いているのを確かめる。 彼女の心臓はまだ動いていた。 「よかった…、それにしても髪の毛操るなんて面白い能力よね。どんな力使ってんのかしら?」 ほっとひと安心した美琴であった。 to be continued...
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打ち止め「ねぇ起きてぇ、ってミサカはミサカは人妻っぽく旦那の起床を促してみる」 第七学区のとあるマンションの一室。 十歳ほどのあどけない少女が、必死にベッドを揺さぶっていた。 正確には、ベッドの上で布団を被って寝転がっている、白髪の少年を。 打ち止め「ねぇねぇってばぁん、ってミサカはミサカはいやらしい声でいやらしく旦那の起床を……」 一方通行「それ以上喋ったら廃棄処分されたダッチワイフみてェな体にしてやンぞ」 教育上に多分の問題がありそうな言葉を吐きながら、白髪の少年が起き上った。 ボサボサの髪の毛と、気だるそうな表情で、不良のような雰囲気を出している。 目つきは非常に悪く、その瞳は、血のように赤い。 打ち止め「あっ、やっと起きたんだね!ってミサカはミサカは嬉しそうに叫んでみたり!」 一方通行「とっくに起きてたけどな。いつまで経ってもてめェがやかましいから二度寝もできねェ」 打ち止め「えええっ!? それはいくらなんでも酷過ぎない!? ってミサカはミサカは涙目になってみたり!」 少女の方は、喋り方こそ独特ではあるが、振舞いそのものは理性的で、子供らしい可愛らしさも残している。 一方通行「っつーか何なんだよ何なんですか朝っぱらからグダグダとやかましいなテメェは。 久し振りにココに帰ってきたっつーのによォ」 打ち止め「あ、そうだよそうそう! なんか外の様子がおかしいんだよ! ってミサカはミサカは玄関の方を指さしながら訴えてみる」 一方通行「あン?」 白髪の少年―――通称『一方通行(アクセラレータ)』と呼ばれている―――は、 相変わらずやる気のない顔で、部屋の玄関に視線を向ける。 しかし、その赤い瞳には僅かな力が宿っていた。 一方通行「……何が、どうおかしいって?」 打ち止め「うーん、なんかね、空気がピリピリしてるっていうか、雰囲気がおかしいっていうか…… ってミサカはミサカは煮え切らない返答を返してみる」 幼い少女―――こちらは『打ち止め(ラストオーダー)』と呼ばれる―――は、 『強能力者(レベル3)』相当の発電系能力者(エレクトロマスター)である。 空気中の静電気、電磁波等を感じ取ることも可能で、そういった『雰囲気』の変化には敏感なのだ。 一方通行「自分で分かってんならもうちょいマシな事言えよ……」 一方通行はようやくベッドから立ち上がり、寝衣のまま玄関へと向かう。 そして、ドアノブに手を掛けた。 打ち止め「あ、それと、こっちの方が重要なことなのかも知れないけど……」 打ち止めの声に、手を止めて振り返る一方通行。 一方通行「?」 打ち止め「学園都市外の『妹達(シスターズ)』が全てミサカネットワークから分断、 加えて学園都市内に居る『妹達』も、ネットワークには繋がっているものの通信に応答してくれない個体が増えてきてるの、 ってミサカはミサカは困った顔で現状を説明してみる」 ミサカネットワーク。 それは、学園都市第三位の超能力者(レベル5)『超電磁砲(レールガン)』のDNAを元に製造されたクローン軍団、『妹達』が、 脳波リンクによって作り出すネットワークのことである。 本来なら20000人存在した『妹達』だが、とある『実験』により現在は約10000人ほどしか残っていない。 『打ち止め』とは、製造番号20001番の『妹達』に与えられた呼び名。 『妹達』の上位個体であり、ミサカネットワークの管理者でもある。 そして白髪の少年、一方通行も、それらの『妹達』とは決して無関係ではない。 一方通行「……なンだと?」 それはどういうことだ、と一方通行がその疑問を口にする前に。 玄関のドアが、サブマシンガンの銃撃によって、粉々に破壊された。 打ち止め「っ!?」 打ち止めは、慌てて身を隠す。 突然の銃声にも対応出来るあたり、場馴れしていると言うべきか。 破壊されたドアの向こうには、一人の警備員(アンチスキル)が立っていた。 腰まで届く長い黒髪に、モデルのような長身とスタイル、口に咥えた煙草。 そして―――顔から流れる、大量の赤い液体。 打ち止めは、遠目に見るその警備員の顔に、見覚えがあった。 打ち止め「―――っ、ヨミ、カワ?」 黄泉川愛穂。 第七学区の高校教師兼警備員。 そして、この部屋の持ち主で、打ち止めの現保護者でもある。 黄泉川「………アー?」 普段は利発で凛々しい顔をしている妙齢の女性だが、今の彼女にその面影はない。 顔色は酷く青褪めていて、目は虚ろで、口は半開き。その両方から、赤い液体がダラダラと流れるままになっている。 黄泉川は、僅かに呻いてから、両手に持ったサブマシンガンを構えた。 学園都市謹製の、最新鋭の短機関銃。 それを向ける相手は――― 一方通行「―――オイオイオイオイ、ヨミカワァ…… だから言っただろうが。炊飯器で作ったエビフライなんざ食ったら頭おかしくなるぞっつってなァ!」 ―――粉々になったドアの前に毅然と君臨する、一方通行。 一方通行。それは、学園都市内の者ならほとんどの人間が耳にした事がある名前だ。 たった一人で軍隊と肩を張る化物達の中の、更に群を抜く化物。 学園都市の誇る超能力者(レベル5)、序列第一位。 体に触れた『ベクトル』を自在に操作する能力。その能力名が、『一方通行(アクセラレータ)』。 核爆弾の直撃をも防ぎ切り、地球の自転を丸ごと相手にぶつけることすら出来る、最強の超能力者。 サブマシンガンなど、彼にとっては子供の玩具にすら匹敵しない。 現在、彼はとある事件の負傷でその能力の大半を失っているが、 首に着けたチョーカー型の電極で能力を補填している為、電極のバッテリーが続く限りは、最強の能力を行使出来る。 マシンガンの弾丸がドアを突き破る直前、一方通行は電極のスイッチを咄嗟に切り替えていた。 その電極も、『ミサカネットワーク』の力を借りたものだ。 ミサカネットワークによる並列演算により、一方通行の能力に必要な膨大な演算量を補っている。 勿論、『妹達』がネットワークに繋がっていなければ不可能な話なのだが、 何らかの問題はあるものの、ネットワークそのものは機能しているらしい。 一方通行「……」 一方通行は、誰にも聞こえないように舌打ちした。 先ほどサブマシンガンから放たれた弾丸は全て、ベクトルを奪われて玄関の床に転がっている。 本来なら、一方通行の体を覆うベクトル操作膜は『反射』に設定されている。 一方通行に撃たれた弾丸は、攻撃者へとそのまま反射される、はずだった。 しかし、一方通行は、電極を能力行使モードへ切り替えた際に、反射設定を解除し、静止させるように能力を再設定したのだ。 理由は、言うまでもない。そのまま弾丸を反射すれば、玄関のドアと同じように、目の前の攻撃者がバラバラになっていた。 かつての一方通行なら、暴君のような一方通行だったなら、わざわざ能力の再設定などしなかっただろうが。 今の彼は、違う。かつて10000人の『妹達』を虐殺した彼とは、違うのだ。 一方通行「ヨミカワァ……てめェ顔からトマトジュース流してガキビビらせて悦に浸ってんじゃねェぞ。 それとも、アレか? たかが警備員の分際で調子に乗ってっから、どっかの悪ガキに脳ミソいじられて奴隷にでもされちまったのかァ?」 皮肉った笑みを浮かべながら、赤い瞳が煌々と黄泉川を睨みつける。 警備員という役割を担う以上、犯罪者からの恨みを買うことは大いに考えられる。 加えて、学園都市第一位の元保護者、10000人以上のクローン軍団統率者の現保護者という立場の黄泉川は、非常に『利用価値』のある人間でもある。 犯罪者の誰かが、黄泉川愛穂を操り、一方通行、或いは打ち止めを襲撃させた。 一方通行は、煮えくり返りそうな腹の内で、そんな推測を立てていた。 一方通行「……チッ」 一方通行は、怒っている。 黄泉川を操り利用した事。打ち止めを危険にさらした事。その両方に。 黄泉川は、サブマシンガンを一方通行に向けたまま、引き金を引こうとはしない。 引こうとしないと言うよりは、一方通行の気配に圧されて、引く事が出来ない、と言った方が正しいだろう。 しかし、その背後に、複数の警備員の姿が現れる。 全員、手には様々な種類の火器を携え、同様に顔から血のようなものを流している。 一方通行「……にしても、てめェに命令くれたご主人様は随分ユルいアタマの持ち主みてーだなァ。 ―――たかが警備員ごとき、60億人集めても、この一方通行サマに敵うと思ってンのか?」 →1、打ち止めを護る事を優先する 2、警備員を倒す事を優先する 終了条件1:『打ち止め』を連れて第七学区を脱出 一方通行「打ち止め(ラストオーダー)! てめェはそこで布団被ってじっとしてろ!」 一方通行は打ち止めにそう釘を差してから、警備員達の顔を見る。 見知った顔は黄泉川だけだ。遠慮はいらない。手加減は、必要だろうが。 一方通行(ったく……マシンガンまでぶっ放されてんのに殺さずに済ます、 なんざどう考えてもオレのキャラじゃねーよなァ) 自嘲するように、少しだけ笑みを浮かべる一方通行。 しかし、すぐにその笑みもなくなった。 一方通行の身体が、消える。 消えたように見えるほどの、高速移動。 触れるベクトルを自在に操る一方通行には、『床を蹴る』だけでも、爆発的な推進力を生み出す事が出来る。 警備員達の目には、その動きが捉えきれない。 まずは、先頭に立っていた黄泉川愛穂。 その頭を右手で鷲掴む。 黄泉川は抵抗するように一方通行の身体を銃撃するが、その弾丸は全て静止して、一方通行には届かない。 黄泉川の体内循環のベクトルを、僅かに乱し、脳血流の低下を促す。 簡単な話だった。脳血流が低下すれば、人間は失神する。 それを狙っての攻撃、だったのだが…… 黄泉川「 ア ァー?」 一方通行「!?」 黄泉川は、失神しない。 ベクトル操作を誤ったか、と一方通行は焦ったが、やがて本当の理由に気がついた。 一方通行(何だ、コイツの頭の中に流れてンのは……血液じゃ、ないだとォ!?) 黄泉川の体内に流れている液体は、血液ではなかった。 その中には人間の血液も混ざってはいるものの、大半は別の液体だ。 『血液によく似た何か』。それも、一方通行の知識にも無い、未知の液体。 それは、血液の代わりに、黄泉川の体内を循環しているようだ。 一方通行(コレがコイツらを操ってるモンの正体か? ならコイツを抜き出してちまえば……いやァ、駄目だな。 コイツを抜いちまうと、残りの血液じゃ全然足りてねェ。単純に貧血で死んじまう) 一方通行は高速で思考を展開させ、一秒もしない間に、結論に至った。 一方通行「メンドくせェ、直接アタマぶん殴ればいいだけだろォが!」 そして、黄泉川の頭を、玄関のドア枠にぶち当てた。 考えが正しかったと言えるのかは分からないが、黄泉川は何も言えずに気絶した。 ハッとなって黄泉川を見るが、恐らく死んではいないだろう、と適当に辺りをつけて、 一方通行は残った警備員達を睨む。 警備員は、明らかに怯えていた。 その行動に怯えたのか、一方通行が纏うオーラに怯えているのかは分からない。 一方通行「……」 一方通行は何かを言おうとしたが、すぐに思い直して、口を噤む。 さっさと気絶させた方が良い、と直感したのだ。 手当たり次第に近くの警備員の首根っこを引っ掴み、 ある者はマンションの外へ放り投げ、ある者は地面に叩きつけ、ある者は直接頭を殴打して、 一方通行は次々と警備員達の意識を奪っていく。 意識のある警備員が残り一人になった時、一方通行の両手には『血液のよく似た何か』が、ベットリと付着していた。 直接触れてみても、やはりそれが何なのかは分からない。 一方通行(……まァ、分からねェモンは考えても仕方がねェ) そう思い直して、ひとまずその液体を、身体から一滴残らず弾き飛ばした。 気持ちが悪い。そう思っただけだ。 警備員「ヒ、イヒ!? ヒヒ、ヒヒィヒャヒ!!」 警備員は傍目にもかわいそうなほど怯えている。 だが、だからと言って見逃せば、背後から銃を撃たれないとも限らない。 一方通行は、静かにその警備員に手を伸ばす。 その時、警備員が懐から何かを取り出した。 一方通行「手榴弾、ねェ……はン、ココに来て出てきた奥の手がそれかよ。つくづく笑えねェな」 一方通行は余裕綽々といった風に、ゆったりと警備員に近付いていく。 対する警備員は、形振り構わず、一方通行に向けて突進した。 そして、一方通行にぶつかる直前、その手から、手榴弾を投げ放った。 一方通行「!?」 手榴弾は、一方通行には当たらない。 一方通行の頭上を越え、その向こう側。 打ち止め「!!」 打ち止めの眼前へと、放り投げられていた。 一方通行「テ、メェェェェェェェェェェッ!!!」 一方通行は、突進する警備員には目もくれず、一直線に打ち止めの元へ跳んだ。 手榴弾よりも速く、爆発するよりも早く、打ち止めの身体を毛布ごと抱きかかえる。 直後、手榴弾が爆発した。 学園都市特製の、『中規模破壊用手榴弾』。 従来の対人用兵器としての手榴弾ではなく、障壁やバリケードごと敵を殲滅する為に用いる、破格の威力が込められた手榴弾である。 爆発の規模は、周囲10メートル。最早、火薬の塊と称しても問題無い。 更に、殺傷力のある大型の破片が周囲30メートルに飛散する。 その全てを、一方通行は『反射』した。『静止』では、自分が抱える打ち止めに被害が及ばないとも限らない。 確実に打ち止めを護り切る為に、ベクトル設定を全反射に切り替える。 勿論、抱えている打ち止めまで反射してしまうわけにはいかないので、例外設定も演算。 かくして、手榴弾の爆発は、一方通行と打ち止めを除く全てを巻き込み、マンションの一室はあっけなく吹き飛んだ。 当然、床も崩れた為に、二人はそのまま空中に投げだされる。 一方通行は打ち止めを抱えたまま、十メートルほど落下して、2階ほど下の部屋に着地する。着地の衝撃も、当然ながら『反射』した。 打ち止め「び、びっくりしたー、ってミサカはミサカは胸をなでおろしてみる」 一方通行「……安心するにゃまだ早ェみたいだけどなァ」 見ると、既にこの部屋の前にも、警備員達が集まり始めている。 一方通行「イチイチ相手にしてちゃキリがねェ。 打ち止め、そのままサルみてーに俺の身体に掴まってじっとしてろ」 打ち止め「んなっ!? サ、サルみたいって自分から抱きかかえといてそれはないんじゃないかな、ってミサカはミサカは……」 一方通行「舌噛んで後から文句言うんじゃねェぞォ!!」 一方通行は、そう言って、玄関の反対側―――部屋のベランダから、外へと飛び出した。 打ち止めは泣きそうな顔で必死に一方通行の首にしがみついている。 一方通行(だが、逃げて、それからどうすンだ……? 一体、誰がアイツらを操ってたのかも、全く分からないってのに……) と、そこまで考えて、一方通行は気がついた。 あの爆発。一方通行は打ち止めを護るのに精いっぱいだったのだが…… 黄泉川達、警備員は大丈夫だったのだろうか。 一方通行(……ッ! クソ、今から戻っても、メンドくせェことにしかならねェ……) そうしている間にも、一方通行の身体はマンションの外へ着地していた。 周囲には、銃声と悲鳴が飛び交っている。 見れば、警備員達があちこちで戦闘を行っている。 相手は、顔から血を流した、警備員。或いは、学生達。 一方通行「……何だ、こりゃァ。 おい打ち止め、ネットワークの連中と情報を共有できねェのか」 打ち止め「う~ん……さっきから何回か連絡を取れる個体と通信してるんだけど、どうも他の皆もあんまり状況が分からないみたい、 ってミサカはミサカは報告してみる」 一方通行「まァ、そうだろうなァ、このザマじゃ」 突然、人間が顔から血を流して周囲の人間を襲い始める。 これでは丸っきり映画かゲームの世界の話ではないか。 一方通行(こういう時に役に立ちそうなのは……) 一方通行は、知り合いの顔を思い浮かべる。 グループの面々。 否。確かに戦闘能力は確かな連中だが、この状況を把握できている人間がいるとは思えない。 統括理事会。 否。これが非常事態というのなら、あの連中はとっくに保身を図っている。連絡が取れるとは思えない。 アレイスター。 否。何を考えているのか分からないようなヤツを頼りにしても仕方が無い。 なら、芳川桔梗。 一方通行「……」 否定する理由は、特にない。 一方通行の数少ない知り合いの一人であり、曲がりなりにも優秀な科学者である。 彼女なら、或いは何かを知っているのかもしれない。 一方通行(……まァ、多分知らねェだろうが) しかし、それでも。 打ち止めを保護してくれる人間が必要だ。 一方通行が、『黒幕』をぶちのめすために。 打ち止めを危険に晒さないよう、打ち止めを護ってくれる誰かが、必要だ。 そして恐らく、芳川なら、打ち止めを護ってくれる。 護衛というには頼りないが、それでも安全な場所に隠れるくらいはするだろう。 一方通行(アイツは確か……第二学区の研究所にいるはずだったな) 一方通行は、 都合良く近くに落ちていたショットガン(恐らく付近で戦っている警備員の装備だろう)を拾う。 電極のバッテリーは、能力行使状態では30分程度しかもたない。 ここから離脱した後、電極のスイッチを切り替えれば、一方通行は歩行にも不自由が出るほどの弱い存在だ。 武器と、杖の代わりが必要になる。 そして、獣のような速度で、その場を走り去った。 目指す場所は、第二学区。 終了条件1達成(ミッションコンプリート)
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【初出】 禁書SS自作スレ>>826-827 とある授業の社会見学 序―2 上条当麻がインデックスに頭を丸齧りされているのと同じ頃、当麻の通っている学校の職員室で、担任である 小萌先生は机に向かって何やら作業をしているところであった。 パソコンの画面に学園都市の地図を読み出したり、プリンターで出力した資料にチェックを入れたり、さらに他 の資料をコピーしたり、それらを分厚いクリアファイルに閉じていったりと中々に忙しそうである。 さらに、小萌先生の身長は一三五センチ程なので、机からコピー機や資料の棚に移動する際にも、一手間余 計に掛かってしまう為、輪をかけて小萌先生の動きは慌しいものとなっている。 そんなふうに動きまわっていると、職員室の扉が開いて一人の教師が入ってきた。 「ありゃ、月詠センセ、まだ学校に残ってたの? 相変わらず仕事熱心じゃん」 入ってきたのは黄泉川愛穂という名の教師である。 ちなみに、彼女の担当教科は体育であるために年中のほとんどをジャージで過ごしている。ジャージを着てい るのがもったいないくらい美人でスタイルの良い大人の女性なのだが、今日も今日とて、またジャージを着て、 長い黒髪を後ろで軽く縛ったラフな格好をしている。 「あ、はい。明日のための準備をですね、まだもう少ししておこうと思ってるのですよ」 「ふーん。…っと、センセ、プリントが一枚落ちてるじゃん」 軽い足取りでプリントを拾うと、小萌先生に手渡そうとする黄泉川。その際見えたプリントの内容に思わず疑問 が口をついて出る。 「んん? 社会見学祭に出展予定の全企業・グループ、研究機関の全リストと活動内容、及び、学園都市内外 両方の活動施設場所? センセ、こんなの一々全部調べてたら時間なんていくらあっても足りるわけ無いじゃん」 「そうは言ってもですね。うちのクラスの生徒さんはいろいろと手が掛かる子が多いのでこうやって調べておか ないと心配なのですよ。それに、こうやって調べておけば何かあった時も行動が取りやすいと思うのですよ」 その答えに、 「そんなもんかねぇ…。センセのところの生徒さんたちはかえって何かあった時なんか、クラスがまとまって臨機 応変に対応できそうな感じがするじゃんよ。ウチのは普段の生活はそつなくこなせるけど突発的事態には向い てない無難な優等生ばっかで、センセのとこみたいにはっちゃけてる奴はいないんじゃん」 などと気楽そうに返す黄泉川。 「なっ、う、うちのクラスの子たちだって、皆が皆そんなにはっちゃけてる子ばっかりじゃありませんよ!」 そんな黄泉川に対して迫力のない目で睨み付けながら小萌先生は反論しているが、対する黄泉川はあっけら かんとしている。 「まあまあ、どの先生でも自分の預かってる生徒さんたちはかわいく見えるもんじゃん♪」 「なっ、何を言ってるんですか!」 顔を真っ赤にして叫ぶ小萌先生を楽しそうに見ていたが、ふと真面目な口調で呟く。 「まあ実際、こんなウチでも預かってる子どもらは可愛いわけで。だからこうやっていろいろと準備をしちゃうわ けなんじゃん」 見れば、彼女はいつの間に出してきたのか大型のスポーツバッグを足元に置き、他にも色々と道具を手に取 りながら別の袋に詰めている。 「それは……」 「明日の社会見学祭は一応、企業側のデモンストレーションで学校側はそれを見学するだけ、イベントの裏側 には積極的には関わらないってことだけど、何があるか分かんない以上、ウチとしても出来るだけの準備をし ておこうって思ったんじゃん」 気遣わしげな小萌先生の視線に気付くと、照れくさそうに笑う黄泉川。されど、その言葉、その瞳にふざけた色 は無い。 そう、明日は学園都市が年に数回外部に向けて公開する内の一日。 外部からの関心、興味も高いが、それは生徒の側も同じ事。 日頃から学園都市の中だけで生活している身としては、外部と接触、交流を図る数少ない機会なのである。 それを期待している生徒たちのためにも、明日は何にも邪魔されずに精一杯楽しんでもらいたい。 彼女が所属している警備員も、そのためにこそあるのだから。 「まぁ、何かあったときはセンセにはウチのクラスの連中も頼むことになるかも知れないから、今のうちにお願い しておくじゃん」 「ほ、本当は何事もなければ一番なのですよ!」 「そりゃそうだ! こりゃセンセに一本取られたかな!」 心配する小萌先生を見て、不安を吹き飛ばそうとするかのように明るい声を出す。 わざわざ不安要素を前面に出す必要は無い。事が起こったら起こったとき。先のことが分からない以上、その とき自分にできる事をやればいいのだと。 「それじゃウチはこれで失礼するじゃん。センセもあんまり遅くまで準備で残って、明日の朝寝坊しないように気 を付けなきゃだめじゃんよ」 「なっ、そ、そんなことはしませんよ!」 「あっはっは、それじゃーねーん」 足取りも軽く職員室から出て行く黄泉川。 「もう、まったく…」 それを見送った小萌先生も小さく息を吐くと残っている作業を片付けていく。彼女は彼女、自分は自分にできる ことをするために…。 「でも、明日は本当に、生徒の皆さんが楽しめる一日になって欲しいのですよ…」 呟きながら見上げる小萌先生の視線の先には雲一つ無い星空。天頂にある月は何も語らず、ただ静かに光を 降り注いでいる。 社会見学祭開催前夜はこうして更けていくのであった……。
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一方通行 / 8:12:02 / 第七学区 打ち止め「ねぇ起きてぇ、ってミサカはミサカは人妻っぽく旦那の起床を促してみる」 第七学区のとあるマンションの一室。 十歳ほどのあどけない少女が、必死にベッドを揺さぶっていた。 正確には、ベッドの上で布団を被って寝転がっている、白髪の少年を。 打ち止め「ねぇねぇってばぁん、ってミサカはミサカはいやらしい声でいやらしく旦那の起床を……」 一方通行「それ以上喋ったら廃棄処分されたダッチワイフみてェな体にしてやンぞ」 教育上に多分の問題がありそうな言葉を吐きながら、白髪の少年が起き上った。 ボサボサの髪の毛と、気だるそうな表情で、不良のような雰囲気を出している。 目つきは非常に悪く、その瞳は、血のように赤い。 打ち止め「あっ、やっと起きたんだね!ってミサカはミサカは嬉しそうに叫んでみたり!」 一方通行「とっくに起きてたけどな。いつまで経ってもてめェがやかましいから二度寝もできねェ」 打ち止め「えええっ!? それはいくらなんでも酷過ぎない!? ってミサカはミサカは涙目になってみたり!」 少女の方は、喋り方こそ独特ではあるが、振舞いそのものは理性的で、子供らしい可愛らしさも残している。 一方通行「っつーか何なんだよ何なんですか朝っぱらからグダグダとやかましいなテメェは。 久し振りにココに帰ってきたっつーのによォ」 打ち止め「あ、そうだよそうそう! なんか外の様子がおかしいんだよ! ってミサカはミサカは玄関の方を指さしながら訴えてみる」 一方通行「あン?」 白髪の少年―――通称『一方通行(アクセラレータ)』と呼ばれている―――は、 相変わらずやる気のない顔で、部屋の玄関に視線を向ける。 しかし、その赤い瞳には僅かな力が宿っていた。 一方通行「……何が、どうおかしいって?」 打ち止め「うーん、なんかね、空気がピリピリしてるっていうか、雰囲気がおかしいっていうか…… ってミサカはミサカは煮え切らない返答を返してみる」 幼い少女―――こちらは『打ち止め(ラストオーダー)』と呼ばれる―――は、 『強能力者(レベル3)』相当の発電系能力者(エレクトロマスター)である。 空気中の静電気、電磁波等を感じ取ることも可能で、そういった『雰囲気』の変化には敏感なのだ。 一方通行「自分で分かってんならもうちょいマシな事言えよ……」 一方通行はようやくベッドから立ち上がり、寝衣のまま玄関へと向かう。 そして、ドアノブに手を掛けた。 打ち止め「あ、それと、こっちの方が重要なことなのかも知れないけど……」 打ち止めの声に、手を止めて振り返る一方通行。 一方通行「?」 打ち止め「学園都市外の『妹達(シスターズ)』が全てミサカネットワークから分断、 加えて学園都市内に居る『妹達』も、ネットワークには繋がっているものの通信に応答してくれない個体が増えてきてるの、 ってミサカはミサカは困った顔で現状を説明してみる」 ミサカネットワーク。 それは、学園都市第三位の超能力者(レベル5)『超電磁砲(レールガン)』のDNAを元に製造されたクローン軍団、『妹達』が、 脳波リンクによって作り出すネットワークのことである。 本来なら20000人存在した『妹達』だが、とある『実験』により現在は約10000人ほどしか残っていない。 『打ち止め』とは、製造番号20001番の『妹達』に与えられた呼び名。 『妹達』の上位個体であり、ミサカネットワークの管理者でもある。 そして白髪の少年、一方通行も、それらの『妹達』とは決して無関係ではない。 一方通行「……なンだと?」 それはどういうことだ、と一方通行がその疑問を口にする前に。 玄関のドアが、サブマシンガンの銃撃によって、粉々に破壊された。 打ち止め「っ!?」 打ち止めは、慌てて身を隠す。 突然の銃声にも対応出来るあたり、場馴れしていると言うべきか。 破壊されたドアの向こうには、一人の警備員(アンチスキル)が立っていた。 腰まで届く長い黒髪に、モデルのような長身とスタイル、口に咥えた煙草。 そして―――顔から流れる、大量の赤い液体。 打ち止めは、遠目に見るその警備員の顔に、見覚えがあった。 打ち止め「―――っ、ヨミ、カワ?」 黄泉川愛穂。 第七学区の高校教師兼警備員。 そして、この部屋の持ち主で、打ち止めの現保護者でもある。 黄泉川「………アー?」 普段は利発で凛々しい顔をしている妙齢の女性だが、今の彼女にその面影はない。 顔色は酷く青褪めていて、目は虚ろで、口は半開き。その両方から、赤い液体がダラダラと流れるままになっている。 黄泉川は、僅かに呻いてから、両手に持ったサブマシンガンを構えた。 学園都市謹製の、最新鋭の短機関銃。 それを向ける相手は――― 一方通行「―――オイオイオイオイ、ヨミカワァ…… だから言っただろうが。炊飯器で作ったエビフライなんざ食ったら頭おかしくなるぞっつってなァ!」 ―――粉々になったドアの前に毅然と君臨する、一方通行。 一方通行。それは、学園都市内の者ならほとんどの人間が耳にした事がある名前だ。 たった一人で軍隊と肩を張る化物達の中の、更に群を抜く化物。 学園都市の誇る超能力者(レベル5)、序列第一位。 体に触れた『ベクトル』を自在に操作する能力。その能力名が、『一方通行(アクセラレータ)』。 核爆弾の直撃をも防ぎ切り、地球の自転を丸ごと相手にぶつけることすら出来る、最強の超能力者。 サブマシンガンなど、彼にとっては子供の玩具にすら匹敵しない。 現在、彼はとある事件の負傷でその能力の大半を失っているが、 首に着けたチョーカー型の電極で能力を補填している為、電極のバッテリーが続く限りは、最強の能力を行使出来る。 マシンガンの弾丸がドアを突き破る直前、一方通行は電極のスイッチを咄嗟に切り替えていた。 その電極も、『ミサカネットワーク』の力を借りたものだ。 ミサカネットワークによる並列演算により、一方通行の能力に必要な膨大な演算量を補っている。 勿論、『妹達』がネットワークに繋がっていなければ不可能な話なのだが、 何らかの問題はあるものの、ネットワークそのものは機能しているらしい。 一方通行「……」 一方通行は、誰にも聞こえないように舌打ちした。 先ほどサブマシンガンから放たれた弾丸は全て、ベクトルを奪われて玄関の床に転がっている。 本来なら、一方通行の体を覆うベクトル操作膜は『反射』に設定されている。 一方通行に撃たれた弾丸は、攻撃者へとそのまま反射される、はずだった。 しかし、一方通行は、電極を能力行使モードへ切り替えた際に、反射設定を解除し、静止させるように能力を再設定したのだ。 理由は、言うまでもない。そのまま弾丸を反射すれば、玄関のドアと同じように、目の前の攻撃者がバラバラになっていた。 かつての一方通行なら、暴君のような一方通行だったなら、わざわざ能力の再設定などしなかっただろうが。 今の彼は、違う。かつて10000人の『妹達』を虐殺した彼とは、違うのだ。 一方通行「ヨミカワァ……てめェ顔からトマトジュース流してガキビビらせて悦に浸ってんじゃねェぞ。 それとも、アレか? たかが警備員の分際で調子に乗ってっから、どっかの悪ガキに脳ミソいじられて奴隷にでもされちまったのかァ?」 皮肉った笑みを浮かべながら、赤い瞳が煌々と黄泉川を睨みつける。 警備員という役割を担う以上、犯罪者からの恨みを買うことは大いに考えられる。 加えて、学園都市第一位の元保護者、10000人以上のクローン軍団統率者の現保護者という立場の黄泉川は、非常に『利用価値』のある人間でもある。 犯罪者の誰かが、黄泉川愛穂を操り、一方通行、或いは打ち止めを襲撃させた。 一方通行は、煮えくり返りそうな腹の内で、そんな推測を立てていた。 一方通行「……チッ」 一方通行は、怒っている。 黄泉川を操り利用した事。打ち止めを危険にさらした事。その両方に。 黄泉川は、サブマシンガンを一方通行に向けたまま、引き金を引こうとはしない。 引こうとしないと言うよりは、一方通行の気配に圧されて、引く事が出来ない、と言った方が正しいだろう。 しかし、その背後に、複数の警備員の姿が現れる。 全員、手には様々な種類の火器を携え、同様に顔から血のようなものを流している。 一方通行「……にしても、てめェに命令くれたご主人様は随分ユルいアタマの持ち主みてーだなァ。 ―――たかが警備員ごとき、60億人集めても、この一方通行サマに敵うと思ってンのか?」 →1、打ち止めを護る事を優先する 2、警備員を倒す事を優先する 終了条件1:『打ち止め』を連れて第七学区を脱出 一方通行「打ち止め(ラストオーダー)! てめェはそこで布団被ってじっとしてろ!」 一方通行は打ち止めにそう釘を差してから、警備員達の顔を見る。 見知った顔は黄泉川だけだ。遠慮はいらない。手加減は、必要だろうが。 一方通行(ったく……マシンガンまでぶっ放されてんのに殺さずに済ます、 なんざどう考えてもオレのキャラじゃねーよなァ) 自嘲するように、少しだけ笑みを浮かべる一方通行。 しかし、すぐにその笑みもなくなった。 一方通行の身体が、消える。 消えたように見えるほどの、高速移動。 触れるベクトルを自在に操る一方通行には、『床を蹴る』だけでも、爆発的な推進力を生み出す事が出来る。 警備員達の目には、その動きが捉えきれない。 まずは、先頭に立っていた黄泉川愛穂。 その頭を右手で鷲掴む。 黄泉川は抵抗するように一方通行の身体を銃撃するが、その弾丸は全て静止して、一方通行には届かない。 黄泉川の体内循環のベクトルを、僅かに乱し、脳血流の低下を促す。 簡単な話だった。脳血流が低下すれば、人間は失神する。 それを狙っての攻撃、だったのだが…… 黄泉川「 ア ァー?」 一方通行「!?」 黄泉川は、失神しない。 ベクトル操作を誤ったか、と一方通行は焦ったが、やがて本当の理由に気がついた。 一方通行(何だ、コイツの頭の中に流れてンのは……血液じゃ、ないだとォ!?) 黄泉川の体内に流れている液体は、血液ではなかった。 その中には人間の血液も混ざってはいるものの、大半は別の液体だ。 『血液によく似た何か』。それも、一方通行の知識にも無い、未知の液体。 それは、血液の代わりに、黄泉川の体内を循環しているようだ。 一方通行(コレがコイツらを操ってるモンの正体か? ならコイツを抜き出してちまえば……いやァ、駄目だな。 コイツを抜いちまうと、残りの血液じゃ全然足りてねェ。単純に貧血で死んじまう) 一方通行は高速で思考を展開させ、一秒もしない間に、結論に至った。 一方通行「メンドくせェ、直接アタマぶん殴ればいいだけだろォが!」 そして、黄泉川の頭を、玄関のドア枠にぶち当てた。 考えが正しかったと言えるのかは分からないが、黄泉川は何も言えずに気絶した。 ハッとなって黄泉川を見るが、恐らく死んではいないだろう、と適当に辺りをつけて、 一方通行は残った警備員達を睨む。 警備員は、明らかに怯えていた。 その行動に怯えたのか、一方通行が纏うオーラに怯えているのかは分からない。 一方通行「……」 一方通行は何かを言おうとしたが、すぐに思い直して、口を噤む。 さっさと気絶させた方が良い、と直感したのだ。 手当たり次第に近くの警備員の首根っこを引っ掴み、 ある者はマンションの外へ放り投げ、ある者は地面に叩きつけ、ある者は直接頭を殴打して、 一方通行は次々と警備員達の意識を奪っていく。 意識のある警備員が残り一人になった時、一方通行の両手には『血液のよく似た何か』が、ベットリと付着していた。 直接触れてみても、やはりそれが何なのかは分からない。 一方通行(……まァ、分からねェモンは考えても仕方がねェ) そう思い直して、ひとまずその液体を、身体から一滴残らず弾き飛ばした。 気持ちが悪い。そう思っただけだ。 警備員「ヒ、イヒ!? ヒヒ、ヒヒィヒャヒ!!」 警備員は傍目にもかわいそうなほど怯えている。 だが、だからと言って見逃せば、背後から銃を撃たれないとも限らない。 一方通行は、静かにその警備員に手を伸ばす。 その時、警備員が懐から何かを取り出した。 一方通行「手榴弾、ねェ……はン、ココに来て出てきた奥の手がそれかよ。つくづく笑えねェな」 一方通行は余裕綽々といった風に、ゆったりと警備員に近付いていく。 対する警備員は、形振り構わず、一方通行に向けて突進した。 そして、一方通行にぶつかる直前、その手から、手榴弾を投げ放った。 一方通行「!?」 手榴弾は、一方通行には当たらない。 一方通行の頭上を越え、その向こう側。 打ち止め「!!」 打ち止めの眼前へと、放り投げられていた。 一方通行「テ、メェェェェェェェェェェッ!!!」 一方通行は、突進する警備員には目もくれず、一直線に打ち止めの元へ跳んだ。 手榴弾よりも速く、爆発するよりも早く、打ち止めの身体を毛布ごと抱きかかえる。 直後、手榴弾が爆発した。 学園都市特製の、『中規模破壊用手榴弾』。 従来の対人用兵器としての手榴弾ではなく、障壁やバリケードごと敵を殲滅する為に用いる、破格の威力が込められた手榴弾である。 爆発の規模は、周囲10メートル。最早、火薬の塊と称しても問題無い。 更に、殺傷力のある大型の破片が周囲30メートルに飛散する。 その全てを、一方通行は『反射』した。『静止』では、自分が抱える打ち止めに被害が及ばないとも限らない。 確実に打ち止めを護り切る為に、ベクトル設定を全反射に切り替える。 勿論、抱えている打ち止めまで反射してしまうわけにはいかないので、例外設定も演算。 かくして、手榴弾の爆発は、一方通行と打ち止めを除く全てを巻き込み、マンションの一室はあっけなく吹き飛んだ。 当然、床も崩れた為に、二人はそのまま空中に投げだされる。 一方通行は打ち止めを抱えたまま、十メートルほど落下して、2階ほど下の部屋に着地する。着地の衝撃も、当然ながら『反射』した。 打ち止め「び、びっくりしたー、ってミサカはミサカは胸をなでおろしてみる」 一方通行「……安心するにゃまだ早ェみたいだけどなァ」 見ると、既にこの部屋の前にも、警備員達が集まり始めている。 一方通行「イチイチ相手にしてちゃキリがねェ。 打ち止め、そのままサルみてーに俺の身体に掴まってじっとしてろ」 打ち止め「んなっ!? サ、サルみたいって自分から抱きかかえといてそれはないんじゃないかな、ってミサカはミサカは……」 一方通行「舌噛んで後から文句言うんじゃねェぞォ!!」 一方通行は、そう言って、玄関の反対側―――部屋のベランダから、外へと飛び出した。 打ち止めは泣きそうな顔で必死に一方通行の首にしがみついている。 一方通行(だが、逃げて、それからどうすンだ……? 一体、誰がアイツらを操ってたのかも、全く分からないってのに……) と、そこまで考えて、一方通行は気がついた。 あの爆発。一方通行は打ち止めを護るのに精いっぱいだったのだが…… 黄泉川達、警備員は大丈夫だったのだろうか。 一方通行(……ッ! クソ、今から戻っても、メンドくせェことにしかならねェ……) そうしている間にも、一方通行の身体はマンションの外へ着地していた。 周囲には、銃声と悲鳴が飛び交っている。 見れば、警備員達があちこちで戦闘を行っている。 相手は、顔から血を流した、警備員。或いは、学生達。 一方通行「……何だ、こりゃァ。 おい打ち止め、ネットワークの連中と情報を共有できねェのか」 打ち止め「う~ん……さっきから何回か連絡を取れる個体と通信してるんだけど、どうも他の皆もあんまり状況が分からないみたい、 ってミサカはミサカは報告してみる」 一方通行「まァ、そうだろうなァ、このザマじゃ」 突然、人間が顔から血を流して周囲の人間を襲い始める。 これでは丸っきり映画かゲームの世界の話ではないか。 一方通行(こういう時に役に立ちそうなのは……) 一方通行は、知り合いの顔を思い浮かべる。 グループの面々。 否。確かに戦闘能力は確かな連中だが、この状況を把握できている人間がいるとは思えない。 統括理事会。 否。これが非常事態というのなら、あの連中はとっくに保身を図っている。連絡が取れるとは思えない。 アレイスター。 否。何を考えているのか分からないようなヤツを頼りにしても仕方が無い。 なら、芳川桔梗。 一方通行「……」 否定する理由は、特にない。 一方通行の数少ない知り合いの一人であり、曲がりなりにも優秀な科学者である。 彼女なら、或いは何かを知っているのかもしれない。 一方通行(……まァ、多分知らねェだろうが) しかし、それでも。 打ち止めを保護してくれる人間が必要だ。 一方通行が、『黒幕』をぶちのめすために。 打ち止めを危険に晒さないよう、打ち止めを護ってくれる誰かが、必要だ。 そして恐らく、芳川なら、打ち止めを護ってくれる。 護衛というには頼りないが、それでも安全な場所に隠れるくらいはするだろう。 一方通行(アイツは確か……第二学区の研究所にいるはずだったな) 一方通行は、 都合良く近くに落ちていたショットガン(恐らく付近で戦っている警備員の装備だろう)を拾う。 電極のバッテリーは、能力行使状態では30分程度しかもたない。 ここから離脱した後、電極のスイッチを切り替えれば、一方通行は歩行にも不自由が出るほどの弱い存在だ。 武器と、杖の代わりが必要になる。 そして、獣のような速度で、その場を走り去った。 目指す場所は、第二学区。 終了条件1達成(ミッションコンプリート)